国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

ライオンと村上隆 村上隆

国宝とのかかわりという意味では少し遠く感じた作品であった。

現場で見た時は題名の通りライオンと村上隆の作り上げたキャラクターが並ぶ作品だとしか思えなかった。ところが帰って画面上で写真に撮ったライオンをじっくりと見ると獅子に見えた。背中に乗せている球体が鞠で、唐獅子へと想像を膨らませていたのだ。まさかの狩野永徳の唐獅子図屏風からの発想?に見えてきた。

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歩き疲れた親獅子が休憩している間、子供の唐獅子が無邪気に遊ぶ。永徳の作品のその後を描いた。絵柄としては後ろ足のあたりの模様は永徳の作品にそっくり。そう言えば、唐獅子に手毬は中国古来の求婚の風習からきているそうで、題材としてよく使われている。その一方で、唐獅子と牡丹が定番なのに村上隆風の花で仕上げている。そこがカモフラージュして唐獅子と見抜けずにいた。この作品は熱心なコレクターのオーダーに応えることで生まれたそうで、桜の花なのはそのせいかもしれない。

現代アートとして売っていくには全体がファンシーな雰囲気が好まれる。そにに古典的教養を平面画でつなげるには最適解になっている。隠れミッキーならぬ隠れ唐獅子(ど真ん中にいる)だったとは、現場で気づくべきだった。

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桜も散り始めたが、京都市京セラ美術館ではまだ満開。

これって時期によって変化?するとすれば、図録もまだ販売されていなかったのでまた見に行きたい。

慧可断碑図 村上隆

4月13日から京都国立博物館で始まる雪舟伝説では、雪舟が描く国宝6点すべて展示される。雪舟の慧可断碑図も展示される予定だが、村上隆が描いたら写真のようになった。

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雪舟作品は達磨大師に対して慧可が弟子志願に掛ける信念の証として腕を切り落す場面を俯瞰で描いている。達磨大師は無表情でチラ見、慧可の態度は「腕切ったけどなにか」と慌てていない。大変なことをしているが静寂を感じる作品である。

一方で村上隆は腕を切り落したことのみを描いている。もしかしたら達磨大師の視点から見る慧可の状況で、腕の切り口らしき部分から色とりどりの液体が流れている。対して差し出す腕は綺麗な状況で、信念を表しているように見える。ここに慧可断碑という題があるため、雪舟の作品を想起させるが、なかったら単なる現代アートとして片づけて見逃してしまう作品である。

背景を銀箔にしているのは水墨画でよく見る、水をたっぷり沁み込ませた薄墨で一旦紙全体を塗ることで背景を作る手法のトレースに思える。経年することで銀が劣化して黒ずんできた時を想像するとまた新しい作品に生まれ変わる。日本の未完成の美を楽しめる作品にもなっている。個人的に創作するとしたら、上部の赤い物体が冷静な慧可を表現するならスカイブルーぐらいの青で一点の曇りもない気持ちを表せたらと感じた。

京都市京セラ美術館と京博はそれほど遠くないので、連続して観るとよい(個人的には雪舟作品が先の方がよいと思う)。

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見返り、来迎図 村上隆

村上隆もののふ京都展に出品されている作品は約9割が新作だそう。京都にあった作品が並んでおり、それぞれ見ごたえがある。

村上隆東京藝術大学大学院美術研究科の日本画科で初めて博士号をとった人物である。その思考から日本美術の平面性とアニメーションなどの現代文化を接続させた「スーパーフラット」セオリーを発案して世に問う作品を出しつつけている。ポップな現代アート作家の素地に日本画があるとは想像もしていなかった。その片鱗が分かるのが、2010年作成の『雲竜赤変図《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》』だろう。ボストン美術館所蔵の蘇我蕭白の雲竜図を想起させる構造ではあるものの、そこは村上隆が描いたものなので、ユーモラスに仕上げている。

見返り、来迎図は禅林寺永観堂阿弥陀仏と国宝である知恩院阿弥陀二十五菩薩来迎図を組合わせたものだと感じた。永観堂阿弥陀様でも二十五菩薩が飛んで来ると180度振り返るぐらいの出来事なのだと勝手に想像する。

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風神図・雷神図 村上隆

村上隆 もののけ 京都」展で洛中洛外図の次に見ておきたかった国宝オマージュ作品は風神図と雷神図であった。

俵屋宗達の描く風神雷神図は屏風絵で、三十三間堂にある彫刻の風神・雷神を参考に描かれたとされる。力強さとユニークな表情が特徴の作品である。

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村上隆の描く風神・雷神はというとユニークさ(ゆるさ)をとことん追求したものとなっている。やるきのない表情と比例するように凹凸のない体つき。風や雷を起こす動作に力強さはみじんも感じない。風神雷神を描くにあたって線を極力減らしていることが力の抜けようにつながっている。漫画的手法の神たちが創造する風や雷(自然現象)は色とりどりに彩色を施す。カラフルさは村上隆作品の売りの一つで、この色使いが人気を集めている。ルイヴィトンとのコラボでもそうだったが、配色の正解を見せつけられているようである。

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尾形光琳の花 村上隆

入り口に展示している「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」の反対側の壁は尾形光琳オマージュ作品が並ぶ。

尾形光琳の燕子花屏風絵に見る同じデザインを繰り返す美しさは展示会のメインビジュアルにも使われている顔が描かれた花を大量に複製して配置するのに似ている。単に配置するだけでは全体が崩れるので、うまく配置するセンスが必要である。この芸術作品で目を引いたのが法橋の肩書。記号として書いたのか、実力の称号か、現代美術のトップランナーだからできる遊び。

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あと、足元の意匠が川の流れのようなデザインで、尾形光琳紅白梅図屏風に見る意匠と似ている。琳派リスペクトがここに露われている。

美術展では作品が腰より高い位置にあるので、足元まで視線が落ちないが、ぜひとも見ておきたい作品?である。

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洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip 村上隆

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京都市京セラ美術館で開催している「村上隆 もののけ 京都」展(2024年2月3日から9月1日まで)と聞いて、現代アート作家の作品展なのだろうと決め打ちしていた。もちろん、現代アート作品展であることは疑いようがないが、そこに日本画のオマージュ作品、しかも国宝をモチーフにしていることを知り、少し興味を持ち見に行くことにした。

エントランスでは阿吽像のお出迎え。これだけで気持ちは高まり、いざ入場。入り口からすでに見えている作品が岩佐又兵衛の洛中洛外図を村上隆が解釈して作り上げた大作であった。

壁画として壁一面に描いた完璧な鳥観図。通路が狭いため引いて全体を見ることが叶わないが、近くで見ることを想定して細部まで書き込んである。

kokuhou.hatenablog.com岩佐又兵衛の洛中洛外図は屏風絵だが、京都の名所や当時の風俗を事細かく描写している。高さ160メートルぐらいに2曲1双の屏風の中に2500名ほどの人物描写がされている。一方で村上隆の作品は屏風の4倍近い約13mの大作。ダイナミックに描かれているのは村上隆のオリジナルキャラクターたち。街の中に出現した怪獣のような扱いだが、市中で生活する人々は気にする様子もない。主題につくもののけが日本では自然と調和しているというメッセージなのかもしれない。

阿吽像 村上隆

原則として国宝のみを取り上げたサイト運営をしているが、国宝を観てきたから感動できた展示会に出会えた。

京都市京セラ美術館で開催中の「村上隆 もののけ 京都」展である。

展示会は入場料がかかるや鑑賞する時間がないという人は京都市京セラ美術館の訪問するだけでもしてほしい。

なにせ、誰でも入れるエントランスに村上隆の阿吽像が展示されているからだ。

吽像 村上隆

この立体像だけ見るためだけでも美術館へ訪れる価値はある。(ほんとうは展示会をみてほしい)

阿像 村上隆

写真の通り、阿吽像はかなり大きな立像で仁王門に立っていてもおかしくない出来栄えである。ただ、極端にデフォルメされている部分が漫画チックで、現代解釈を加えた阿吽像となっている。顔が大きく、胸部分が発達しているが、足が細い。角が生えているのが微妙だが、邪鬼を踏んでいたり筋骨隆々な点はクラッシックを周到している。力強さは東大寺南大門の金剛力士立像を彷彿とさせる。

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ただ、頭身的には興福寺の木造天燈鬼・龍燈鬼立像が近い。

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800年も昔に鎌倉仏師が仕上げた筋肉美が現代アートでも通用する技法である。

この他、中庭の本庭園には約13メートルの巨⼤彫刻作品が、チケットがなくても誰でも見ることができる場所に設置。お花の親子がヴィトンのトランクの上に乗っているものである。これを見て興味を持った人は会場に入ったほうがよい。京都会場のみで巡回なしだそう。

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国宝拝観者たちの夢、千件越えをいつの間にか達成した。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標が完結した。 次の1100件は果てしなく遠いので、1050件を一区切りにしよう。