国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

太刀 銘正恒 文化庁

京都のイメージは平安時代の雅な雰囲気で、京博の展示でも煌びやかなものの展示がよくある。今回も円山応挙の企画展示があり、目の保養になった。東博で開催されたやまと絵の豪華さをぜひ京博視点で企画してほしい。

さて、国宝は備前・備中・備後の名刀の企画で出品が1点あった。吉備地方の刀剣を集めて展示していたが、その多くが鎌倉時代に作られた太刀であった。文化庁所蔵(保管は京博)の正恒は太刀で長さ約75センチメートルと長尺であることに加え、鍛えと刃文が正恒の典型ということで国宝の指定を受けている。太刀は長さがある分、扱いにくいため摺り上げて短くされたものをよく見る。この企画展でも何点かあったが概ね太刀としてそのまま受け継いだものが多かった。個人的には短刀の愛らしさが好きなのだが、鎌倉時代の益荒男が身に着けたものを揃って見るのも悪くなかった。

金銅藤原道長経筒 金峯山経塚出土 金峯神社

京博では新春の企画展の後半戦が始まっていた。毎年恒例となりつつある雛人形の展示は旧家からの寄贈品が並ぶ雅な空間となっている。

3階で開催されている平安時代人の祈り―経塚と経筒―では展示替えが行われ、新たな国宝が展示されていた。金銅藤原道長経筒はNHK大河ドラマ・光の君への中心人物である。その藤原道長金峯神社へ納めた経筒を展示していた。御堂関白日記に見る筆まめ男・道長が栄華を極める足掛かりを感謝するため納経した。その経典を納めた筒が見つかり、日記と一致したことから貴重な文化財として国宝となった。NHKでもこの国宝が小道具として再現されるかもしれないので、しっかりと目に焼き付けてドラマ鑑賞を楽しむ。

観音堂 孝恩寺

孝恩寺は大阪府泉南貝塚市ある。水間鉄道に乗って、終着駅の水間観音駅を降りて歩いてニ十分ぐらい行った住宅街にある。

道中、駅名にもなる水間寺を横切る。天台宗の別格本山の地位が示す通り、かなり立派なお堂や三重塔のある格式高いお寺である。そこからさらに歩き、住宅街の路地に入ると孝恩寺がある。ちょうど川沿いの崖の上に作られたお寺で、いまは廃れているが海運の見通しが非常に良い立地である。

入り口を入るとすぐに見えるのが国宝の観音堂。浄土宗であるので、本尊は阿弥陀如来なのだが、観音堂という昔からの呼び名で通っている。そもそもこのお堂は観音寺の本堂であったのが名の由来で廃寺となったため、孝恩寺と統合されて現在に至っている。

この観音堂は別名が木積の釘無堂と呼ばれ、鎌倉時代密教建築様式で作られている。ただ、鎌倉期の金属は貴重品なので、釘を使わずに組んで建てられるのがほとんど。敢えて別名にする必要はなかったはずなので、近世になって命名されたのだろう。

国宝建築物の観音堂は普段から見ることはできる。ただ、訪れるなら春と秋に開催している宝物殿の特別公開に合わせて行くのがお勧めである。宝物殿内には重要文化財に指定されている仏像19体が安置されており、この数の重文仏像を所蔵している寺院は大阪府下では数寺院しかない。どれも美しいフォルムの仏像ではあるが、本尊であった阿弥陀三尊以外は彩色がほぼ落ちている。これは経年劣化もさることながら、火災などで焼けない様に川に沈めて難を逃れたことも影響しているそうで、火災や戦災が文化財を痛める悲しさを伝えている。国宝と共に見ておいて損はない。

十便十宜図のうち 課農便・宜夏 池大雅・与謝蕪村筆 川端康成記念会

出光美術館が入る帝劇ビルが建て替え、再開発されることとなった。美術館は2025年をめどに一時休館となる。2024年春から秋にかけて、「出光美術館の軌跡 ここから、さきへ」と題して、同館所蔵の名品たちが惜しげもなく展示される予定だ。

その前に、2024年冬展である池大雅では国宝の十便十宜図が展示されていた。この十便十宜図は池大雅与謝蕪村が十の便利なことと十の良い(宜)ことを描いている。これが一冊ずつの画帖で描いているため、一度にすべてを見せることができない。なので、国宝では珍しく1面ごとを10回に分けて展示することが多い。国宝の多くは全面公開や人気のある面、公開面を分割するにも4回に分けてぐらいだ。なので、十便十宜図を全面見るためには10回見に行かないとコンプリートできない。公開機会が少ない作品でないのがせめてもの救いで、数年に1度の公開機会に地道に見ていきたい。

楼閣山水図屏風 池大雅筆 東京国立博物館

池大雅生誕300年を記念した展示会が出光美術館で行われていた。開催から15日間だけだが東博所有の国宝・楼閣山水図屏風を展示していたので、見に行った。

2018年春の京博特別展で天衣無縫の旅の画家として池大雅をピックアップした展示会を開催した。このブログを始めるきっかけとなった2017年秋の京博で開催された国宝展の次の特別展だった。それまで、池大雅という名前すら聞いたことがなかった。今でもそうだが、南画が好みでないこともあり食指が動かず、同分野の美術展を積極的に見に行くことがなかったためだ。当時、池大雅の作品を絵画として見ても好きにはならなかったが、文字のバリエーションが面白いことに気づいた。東博書道博物館兵庫県立美術館などが連携して開催している呉昌碩没後180年の記念展ではないが、書家として見るか画家として見るか個人的嗜好の角度を変えて楽しめることを知った展示会であった。

楼閣山水図屏風は一昨年の東博150年展にもちろん出品されていた。同作品は人の集まりがいまいちだったように記憶する。屏風としてそれなりの大きさがあるにも関わらず、描かれているテーマに派手さはなく、ゆったりとした雰囲気を醸していて見逃しやすい。色はポイントのみで使い、金地がくすんできらきらしておらず、水墨画で仕上げていて派手さがない。東博所有の国宝たちが綺羅星の如く陳列されていては霞むのも仕方ない。

出光美術館では大きな作品で一番の目玉作品を展示することが多い、第1室の少し下った単独展示スペースに陳列していた。段差があるため、足早に進む人の導線から離れるためゆっくりと鑑賞できるスペースで、近づいたり離れたりしてながら鑑賞した。風景は細かく描いている割に建物のパースがとれていなかったり、人の顔が簡素に描かれたりしていて、近くで見ると気になる点が多い。西洋画家のベラスケスが活躍したバロック期の絵を観賞するように遠目に見るのが正解?と思い、離れて見ると目に入る情報量が多いので好みではなくなる。まだまだ南画の見方が習得できない。

金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図 大長寿院

東博の国宝室では金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図の第一幀・第四幀が掲げれれていた。遠くから見ると宝塔の絵だが、その絵がすべて文字によって構成されている。しかもそれが経典の写経となっているからビックリする。これをまじまじと見ていると六波羅蜜寺空也上人像を思います。念仏を唱え続けたことで、口から仏様が出ているぐらいありがたいものになった景色を具現化したものである。この曼荼羅図も宝塔自体がありがたいため、そのものが経典に変化したものを表しているように見える。

この構図はあまり流行らなかったみたいで、この国宝以外であまり見たことがない。もし、流行していたら写経で描かれた本堂や経蔵バージョンが出来ていただろう。

金銅迦陵頻伽文華鬘 中尊寺金色院

模造品です。

文化財の複製プロジェクトが特別展に合わせて公開される機会が目立つようになってきた。キヤノンの綴プロジェクトでは未来へ文化財を継承ため、撮影技術を活かして絵画分野の複製に力を入れている。劣化したものを再現する複製もあり、東大寺ミュージアムでは金鈿荘大刀が造られた当時の姿を現代によみがえらせていた。

2階の特別2室では中尊寺金色院展に合わせて、親と子のギャラリー中尊寺のかざりと題して、複製事業の紹介をしていた。特別展に展示していた国宝の華鬘は人が溜まっていて、じっくりと見ることが出来なかった。平泉へ行った時にじっくりと見たのでまあいいかと思っていたが、2階に上がると再現したものが陳列していた。もちろん、本物をじっくり見るのが一番よいが、こうゆうときに模造品は人気がなく、周りを気にせずにじっくり見ることが出来てありがたい。この他にも螺鈿八角須弥壇や磬架など螺鈿細工で再現した文化財が並んでいた。8K映像と共に、模造品を巡回させるだけでも結構よい内容の展示企画になりそうだ。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。