国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

大包平 東博

東博で開催している空海と真言の名宝展を見に行った後、本館をぶらりと散策する。相変わらず外国人観光客の多さに加えて、ちらほらと課外学習の学生の集団が見受けられた。子供の頃は全く美術に興味がなかったの課外学習で博物館や美術館へ行っても学びには程遠いものであった。連れて来られるよりも、自分でお金を払って行くぞと思わないと身に付かないものだろう。
本館も特別展に負けずに大いににぎわっている中で、普段だと見るために列ができていることも珍しくはない国宝の刀剣のショーケース前がスポット的に空いていた。展示されていたのは大包平で、太刀として力強く伸びる刀身は古備前派を代表する。刀工の包平の作品の中でも出来が良いために名物に”大”がつく。
大包平は天下五剣の一つである童子切安綱ととともに、日本刀の東西両横綱と称されるほどの日本を代表する名刀である。鎌倉武士が好む太刀の典型的な形は見ごたえがある長い刀であるため、大きなショーケースには大包平のみを展示していた。まさに独り占めできた時間であった。

【空海生誕1250年展】 五智如来坐像 安祥寺

東博で開催されている空海生誕1250年記念展は2024年春に奈良博であった空海展に比べて宗教色を薄めた内容であった。仏教美術の殿堂である奈良博が仕掛けた空海展は各寺院の傑作を用いた曼荼羅空間の再現だった。今回は後七日御修法ですら簡単な空間演出で済ませており、秘仏たちの公開がメインイベントとなっていた。空間作りでは奈良博の展示会の方に軍配が上がる。
今回の東博にも来ていた安祥寺の五智如来坐像を見比べると分かりやすい。奈良博の空海展では十字の配列で儀式通りとなっていた。対して、東博ではW字の配列で写真映えする並びであった。なお、京博は横に直線一文字の並びとなっていた。東博では五智如来坐像の写真を撮ることができたのはありがたいが、正面からしか気遣っておらず背面に回ると無防備になっていた。展示件数も少なかったので、もう少し宗教色を強める演出があってもよかった。

【空海生誕1250年展】薬師如来坐像 円勢・長円作 仁和寺

空海と真言の名宝展の第四章。ここから見ごたえのあった仏像彫刻の世界へと突入する。展示物が全部で88件、国宝が15件と少ないと思っていたが、その考えが甘いと思わせるほどの重要文化財の彫刻が並んでいた。快慶作の不動明王坐像(醍醐寺所蔵)と金剛薩埵坐像(随心院所蔵)、湛海作の厨子入り五大明王像など、それぞれ迫力のある仏像たちだった。
その後には、この展示会のためだけに日頃は公開していない秘仏たちが陳列されていた。大阪・大門寺の如意輪観世音菩薩坐像や三重・観菩提寺の十一面間座温菩薩立像、そして高野山・金剛三昧院の千手観音菩薩立像と同地でも見ることが困難な仏たちだ。そして見られたとしても厨子内で暗がりの中なので博物館の美しいライティングで見ることができるのはこの機会をおいて他にない。秘仏が並ぶ中に、蘭奢待まで展示されていた。木造物という点では共通するのかもしれない。
秘仏公開で一番小さいにも関わらず最も目を引いたのは仁和寺の薬師如来坐像だった。コロナ禍に仁和寺の霊宝館で見て以来、久しぶりの対面となった。京博の国宝展でも見ているが、今回の東博での展示は非常に明るい空間での展示であった。そのためもあり、截金細工がとても見やすかった。薬師如来の衣に付けられた金糸は肩の丸み部分などで映えるデザインで、経年で多少は薄れているものの截金細工の真骨頂を見ることができた。また、光背や台座の彫刻を引き立てるために細かい金紙の吹雪は光の当たり具合でキラキラと光り、神々しさの演出としては申し分ない出来栄えである。この如来の大きさが如来と台座を合わせても20センチ弱ぐらいで、彫られたのが日本で入手が困難な白檀である。白檀は希少な香木でもあり、蘭奢待ととも、一度その香りを匂ってみたい。

【空海生誕1250年展】一字一仏法華経序品 善通寺

部屋を移して第三章は真言宗各派の名品を展示。儀式で使用する鈴や香炉、仏画などが並ぶ。単体では見たことがある信貴山縁起絵巻、石山寺縁起絵巻、勧修寺縁起絵巻の三連コンボはなかなか見ごたえがあり、ミニ絵巻物展となっていた。
この部屋は第一会場に比べると人がまだ滞留が少なかったこともあり、ゆっくりとそれぞれの文化財を見ることができた。その中の一つである一字一仏法華経序品を久々にじっくりと拝見した。奈良博でたまに展示があるので、ついなおざりに見てしまっていた。じっくりと見るきっかけは、第一会場と第二会場の間にあるお土産コーナーに、一字一仏のデザインをプリントしたお菓子(千寿せんべい)が売られていて、こんなに仏の顔が雑に描かれていたのだろうかと疑問に思ったからだ。写経された法華経の一文字一文字に対応する形で蓮の足場と仏が描かれていた。写経する何倍もの時間を掛けて仕上げた珍しい経典である。写経の文字の大きさぐらいの仏様なのでそれほど大きくはない。なので、描きにくいせいもあって顔の目鼻口が点で表現されている。その向きが結構雑に描かれていた。全体を離れて見るとそれほどでもないが、単体をピックアップすると顔の表情のなさが目立つ。国宝の絵巻物が並ぶ中にあっては絵が残念に見える国宝となってしまった。

【空海生誕1250年展】十二天像 西大寺

生誕1250年を祝う空海と真言の名宝展の第二章は、後七日御修法に関する文化財を展示していた。後七日御修法は毎年1月8日から14日の7日間に教王護国寺(東寺)で行われる一大行事で、天皇の身体安穏や国家の安泰を祈る。天皇の名代である勅使が来ることもあり、真言宗の十八本山が出そろう宗派最高の行事である。
なのでさぞや豪華な章だろうと部屋に入って見ると、展示数は5件と非常に少なく殺風景とさえ感じた。2019年春に開催された東寺展では後七日御修法を実施する空間をそのまま再現していたので、かなりのスケールダウン。また、その前の部屋には金剛峯寺所蔵の快慶作の執金剛神立像と沙悟浄のモデルとされる深沙大将立像があり、鎌倉仏像の象徴的な筋骨隆々な出で立ちに圧倒された後でもあったので、少しがっかりしそうだった。
ところがである。よく見ると後七日御修法の主役である二間観音(聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像)が中心に展示していた。高さ20センチぐらいの立像で普段は厨子に仕舞われていることもあり、彩色はほぼ完全に残り、こまかな截金が仏像の品格を高めていた。2019年に修理を終えたとはいえ鎌倉時代に作られたとは思えない瑞々しさがあった。まさにそれを見せるための空間となっていた。
中心にある二間観音を見ながら、横には西大寺所蔵の国宝の十二天像のうち羅刹天が飾られていた。平安初期の作品である西大寺のものは鳥獣にまたがって勇ましさがあった。第一章に出ていた東寺所蔵の十二天屏風は鎌倉時代に初代が火災によって燃えたため新たに作り直したものなので天たちは蓮の上に立っていた。後七日御修法の章では原点に近い西大寺のものが選ばれたのだろう。毎回ではあるが、西大寺の十二天像は時代が古い文化財なので傷みが激しいが、歴史の重みと思えば味わい深い。

【空海生誕1250年展】三十帖冊子 仁和寺

空海生誕1250年を記念した展示会が東博で開幕した。空海が広めた真言宗の各派から選りすぐりの寺宝たちが集結した。と書くとさぞや大量の国宝文化財が展示されていると思っていたが、今回の展示会では総数は88件、国宝は15件となっている。昨年の国宝祭りを見ていると若干見劣りする。
最近多い各派の総本山系の単独展示会(東寺や仁和寺、大覚寺)では宗派をよく知るための内容となるので総力を結集した文化財が展示される。今回の展示会では真言宗という大きな頂のため総花的な展示にならないかと心配していた。すべてを見終えての感想は出品されている彫刻たちのよさが半端ない展示会だと思った。とはいえ、真言宗は彫刻だけではない。4つのテーマで各寺院の自慢の寺宝を持ち寄ることで、真言宗の全体を見せようとしていた。
第一章は空海と真言密教。空海がもたらした密教が真言宗の原点であることから、それに関わる文化財が並ぶ。まずはキービジュアルにもなっている空海像がお出迎え。江戸時代に作られた金剛峯寺所蔵のもので、勇ましく黒光りする像であった。そして、空海が直接執筆した仁和寺所蔵の三十帖冊子が展示されていた。大陸で学んだ密教を日本に持ち帰るために写経生などを雇って必死に書いたものだ。2018年年始に東博で開かれた仁和寺と御室派のみほとけ展では30帖すべてを公開したが、前期・後期で各2冊を公開予定。請来目録に記載がなく、大きさは十数センチぐらいで大陸から空海が隠して持ち帰り、今や空海の筆使いを知れる真言宗の大切な寺宝となっている。
冊子がそれほど大きくないにも関わらず詰め込む情報が大量にあったため、かなり細かい字で書き写されている。そのため見る人が三十帖冊子の前で滞留していた。なかなか空海と同じ時を過ごした文化財はないので、生誕1250周年にはなくてはならない国宝である。

本堂 長谷寺

長谷寺開山1300年を記念した国宝の里帰りを見終えて、回廊を登りきると本堂が現れる。そこにある本尊は約10メートルの巨大な十一面観世音菩薩立像である。観音様は本堂の無料で通り抜けられる廊下からも拝むことが可能だが、足元まで行ける特別拝観を実施していたのでそれで入場した。縁を結ぶということで五色の紐を手首に巻いて、お香を手にこすって清めてから、いざ十一面観音の元へ行く。さすがに足元で見るとその大きさに圧倒される。無料で見ることができる場所からは観音様全体が見えるが、仰ぎ見る形なので、角度があり頭までの全景は見えにくい。上を向いているとなにか両親に手を引かれている幼き日に戻ったような気分となった。観音様の足を摩ることでご利益が得られるということで入念にさわってから、観音様の周りを1周する。壁面には四天王像や中国から伝わる仙人などが描かれて、雰囲気を醸し出していた。
この十一面観世音菩薩立像を納めている本堂は平成16年12月に国宝の指定を受けました。国宝になってまだ22年しか経っていない最近の国宝である。本尊同様に本堂の全体を見るなら離れた場所からがよい。その最もよい角度に建つのが本堂から下って出口近くにある本坊である。写真は本坊から撮ったもので、突き出した舞台がよく見える。
この本坊でも開山1300年を記念して、国内最大級・16メートル超の掛け軸を8年ぶりに公開していた。掛け軸は十一面観世音菩薩立像が描かれており、制作用の設計図のようだった。そして本尊の十一面観世音菩薩立像の頭部の十一面で背面後ろに構えている悪大笑面を精密に再現して着色したものも展示していた。頭の上に乗っている面だが、人の顔の大きさよりもボリュームがありそうだった。背面からしか見られないので、普段は絶対に見ることができない。複製品とはいえ見ることが出来て満足した。本坊では廊下で長谷寺縁起絵巻の複製品も公開していた。同寺院の歴史を知ることができるので、欲を言えば宝物館当たりの早い段階で見ておきたかった。長谷寺の文化財について全部さらけ出そうというぐらい、色々と公開していてあじさいとともに見ごたえのあり充実した内容であった。

国宝拝観者たちの夢、千件越えをいつの間にか達成した。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標が完結した。 次の1100件は果てしなく遠いので、1050件を一区切りにしよう。