奈良博の「空海・密教のルーツとマンダラ世界」展では智証大師・円珍に関連した文書典籍のうち梵夾が展示されていた。第二章の「密教の源流̶陸と海のシルクロード」の入り口すぐ、一番最初の展示物であった。第一章が奈良博東新館を使ったマンダラ世界の再現であったので、実質的にルーツを探る最初の章で、のっけから国宝の展示となっていた。
日本に本格的な密教をもたらしたのは弘法大師・空海である。この空海に影響を受けて、密教を学ぶべく大陸に渡って学んだしっかりとした裏付けがとれる文書として残っているのが智証大師関係文書典籍である。2023年5月24日にユネスコの「世界の記憶」に登録されたのは記憶に新しく、1200年前の文書が残っているだけでなく、それが戸籍や入唐関係、求法目録、伝法関係など資料的価値の高いものが評価されての登録である。1200年の海外渡航時のパスポート(過所)は所有者が特定できる世界最古級のものである。
智証大師・円珍が請来した経典の中に梵夾がある。紙きれにサンスクリット語が書かれていて重要な文字のみに漢字で訳語が振られている。大日経真言や十二天真言と解説にあるが、梵字を理解しないので分からない。ただ、円珍が大陸から持って帰り、園城寺で大切に保管され続けたものであることは間違いない。この請来品などで学んだ円珍は延暦寺の座主となり密教、真言宗の東密に対する天台宗の密教である台密を確立する。仏教の総合大学的な比叡山延暦寺においては最澄が懇願した教義である密教を早々に獲得できたことは修行僧を獲得して寺勢拡大に大きく貢献を果たしたことだろう。