国宝彫刻の最高傑作は無著・世親菩薩立像だと思う。他の祖師像はどこか仏頂面だが、無著・世親菩薩立像は写実的に彫られた表情がなんともアンニュイでそれでいて玉眼がさらに鋭さを演出している。北円堂内にあるので威厳を感じるが、単独で展示していたら高僧とは思わず、穏やかで親しみのある近所のおじいちゃんに見える。
慶派の彫刻では金剛力士像のように力強い動的な体形から切り取った美しい静描写がある一方、菩薩のようの達観した無の状態を表現したものがある。その点、無著・世親菩薩立像は信者たちに説法を語りだす寸前、静から動に移行する寸前を表現しているように見える。あくまで表情は静寂だが、(玉眼だから当然だが)目の奥が光の加減で煌めくことで視線が動くように見せている。弥勒菩薩・四天王と様々な役割の仏像があるからこと比較できる。北円堂は春と秋に公開があるので、機会があるごとに拝観した。