寶物殿は室生寺の寺宝たちの劣化を防ぐため、保管と保存、そして公開を両立させるために建てられた。なので、一般的な展示用のショーケースでは見せることがない、バックヤードが展示されている仏の後ろに見える。保管と保存を主とすると、展示場所への移動が効率的であり、同じ空間なので環境の変化がないので寺宝に優しい造りとなっている。
その意味では寶物殿に鎮座している大きな仏たちは展示しているというよりも、保管されている場所を覗いていると言ってよい。金堂にいなかった十二神将6体や地蔵菩薩立像の重要文化財クラスに加え、釈迦如来坐像や十一面観音菩薩立像の両国宝もこちらに安置されている。ちょうど仁和寺の国宝・阿弥陀三尊像と同じく、環境の整った場所で余生を過ごしている。
釈迦如来坐像や十一面観音菩薩立像ともに平安前期の作品で、釈迦如来坐像は飾り気のない風貌なのに対して、十一面観音菩薩立像は光背の彩色がかなり残っている。ともに定朝以前の仏像に造られた仏像に見られる大陸からもたらされた仏像の影響を色濃く残している。釈迦如来坐像はどっしりとした顔立ちで目鼻口が中心部に寄っているのに対して、十一面観音菩薩立像は女性的なふっくらとした表情となっている。室生寺が山の辺鄙な場所にあり、昔は世間と断絶した場所だったのだろう。なので、創建されてからの長い歴史があっても、寺の仏像たちは世の人々の目に触れることは余りなかった。交通インフラが発達して、多くの人が見に来るようになった。大切に受け継いできたこれらの仏像たちは、令和の時代になって保存と鑑賞の両立できる安住の館ができて、ほっとしていることだろう。