日曜美術館の日本絵画15選には三の丸尚蔵館所蔵の狩野永徳作・唐獅子図屏風が選ばれている。安土桃山時代の傑作であり、狩野派の地位を確立した作品でもある。
その永徳に対抗心を燃やしていたのが長谷川等伯。狩野派が職人を集めて工房で制作するのに対して、等伯は一人で立ち向かった。松林図屏風は静けさが生まれ故郷の能登の静かな風景を描いたと言われ、派手な狩野派とは対照的な作品である。東博では新春の公開が恒例となっている。一年の始まりにふさわしい作品である。
新興宗教が拡大するにつれて、その開祖の自伝が書かれることがある。それが書籍だったり、絵物語だったりする。中世に起こり、現代まで続く有名宗教の開祖たちは絵巻物になって、その実績を伝えている。なかには国宝になっているものある。
その中で一遍聖絵は宗教家・一遍の波乱満ちた生涯に関する物語のほかに見どころがある。それは布教の対象とした一般庶民の生活が分かる風俗画としての側面である。
古来の宗教は己の修行と天皇を中心とした貴族に対して安寧を与える活動が中心で、宗教の大衆化には至っていなかった。そこに突如として現れたのが一遍上人で、識字率が低かった時代に踊念仏という見て分かりやすい表現で布教に励んだ。それを絵として残すことで、大衆に根差した一遍上人像がより際立つ表現となっている。2019年の春の京博では遠忌700年として一挙公開があった。
観たことのない仏をどうのように表現するか。西洋東洋問わず様々な技法が用いられてきた。その一つが現実にあるもとと比較して描くことによって如何に仏が偉大かが分かる書き方がある。
山越阿弥陀図は大きな山を描いてその大きさに負けない阿弥陀仏を表現することで、仏がいかに大きいかを描いている。大きな阿弥陀だからこそ、多くの人々の迷いを導くことができると思わせるレトリック表現である。奈良の廬舎那仏は現実世界に降り立った仏の偉大さを直接表現したものだが、作成費用が膨大な金額(労力)となるので、おいそれと作ることができない。その点、紙に描く分の表現は無限大に膨らませることが可能で、仏の理想像を余すことなく描き切れる。
地上波や衛星でのテレビ放送で美術を扱う番組は多くはないが複数ある。そのなかで、歴史と格が最も高い番組はNHK・ETV(教育テレビ)の日曜美術館であることは疑いようはない。エンターテイメントよりで、分かりやすく美術を解説する番組とは一線を画す、硬派な番組構成は初心者には少しついていけない場面もあるが、興味を持ったテーマを観るならば一番詳しく解説してくれるのでありがたい。
さて、コロナの影響で新規の撮影がままならないようで、6月のテーマは日曜美術館から美の贈り物。日美45年の歴史より「日本絵画傑作15選」と題して、古代から近世までの15作品をピックアップして、3週に分けて特集している。
15作品のうち、国宝は10点で、残り5点は3点(正倉院1点、宮内庁三の丸尚蔵館2点)が天皇家ゆかりの御物、2点は未指定となっている。
チブサン古墳と鳥毛立女屏風は古代の壁画と大陸文化を今に伝える代物。そして、これらの文化を吸収して作り出された国風文化の最高傑作が源氏物語絵巻である。もっとも読まれている小説のひとつであり、女流作家創世記の大スターが書きあげた源氏物語に、日本画の原点となるやまと絵による絵巻物に仕上げた大傑作である。古代から中世にかけての絵図は宗教画が大半で、文学作品を絵巻物にすること自体が珍しい。平安貴族の風土を今に伝える貴重な資料にもなっている。
この国宝・源氏物語絵巻は五島美術館と徳川美術館が所有しており、5年ごとに各館交代で全巻公開の特別展を開いている。2020年はその当たり年で五島美術館の番である。はやく公開される晩秋が来てほしい。