奈良国立博物館では毎年恒例のおん祭展が開催されている。おん祭は五穀豊穣、万民安楽を祈り大和一を挙げて盛大に執り行われてきた行事で、870年余りにわたり途切れることなく続いている国指定重要無形民俗文化財である。その信仰に関わる文化財を披露する展示会である。
春日大社のお祭りとあって鹿の絵が至る所に展示されている。藤原氏が茨城県の鹿島から来たとされるため、鹿は神獣とされており奈良公園に多くの鹿が生息している。鹿なくして春日大社のお祭りは始まらない。お祭りの内容が細かく描かれた春日若宮御祭礼絵巻は伝統を受け継ぐための見取り図的な役割を果たしており、一般的な絵物語に比べると実用感が高い逸品。美術品としても観ることができるクオリティーはおん祭がいかに大事にされているかを物語る。
さて、国宝はというと鹿ではなく鶴。若宮御料古神宝類の銀鶴が単独で陳列。銀鶴は細工はそこそこよく出来ているのだと思うが、それのみだと全体感が分からないのでもう少し他の物といっしょに陳列してほしかった。祭りで使用されているのかもしれないので、春日大社の国宝殿での一挙陳列の機会を待ちたい。