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国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

【京の国宝】春日権現記絵 宮内庁三の丸尚蔵館

コロナ禍においては、移動制限がある中で文化財の審査作業に大きな影響が出ている。2020年3月に発表された新国宝は4件で、毎回指定替えを受けて開かれる東博での特別展は緊急事態宣言発令により中止となった。続いて同年10月にも八坂神社本殿が指定を受けたが、2021年は春先の発表はなかった。地方行脚ができない状況では致し方なく、落ち着くまでは八坂神社のように有名どころで今更な指定替えがあるぐらいだと高を括っていた。

この高が当たるとも遠からずで、7月に新国宝の発表があった。しかも、重要文化財でなかったものを重文・国宝と一度に指定してしまうという正倉院以来の荒業である。正倉院は古都・奈良が世界遺産の指定を受けるにあたって、指定される対象が文化財の指定を受けていないと認められないとの規定から建物だけ指定を受けた。(そのため、正倉院の中のものは国宝でない)それ以来のことになる。

指定を受けたのは、いずれも宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵する5件で、天皇家に伝わってきた文化財で個人の所有物とみなされた品が相続の兼ね合いで国有となったものだ。いわゆる御物だったもので、国宝の指定を受けたことになる。

個人所有の文化財の中には所有者の意向で重文や国宝の指定を受けていないものがある。所有者が目立つことを嫌うためが多いそうだがそれとは違い、宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵品は慣例的に指定を受けていなかった。今回の指定の背景には観光立国を目指す日本の国策として、昭和までは御物だった文化財と国宝の境目をなくして、海外からの観光客に分かりやすくする狙いがあるそうだ。また、文化財の指定を受けたことで、一定の公開義務が生じることや修繕などの補助金を付ける(宮内庁所有なのでお金の出どころは国税で変わりないのだが)ことが可能となるなど、一般的な文化財と同等の扱いができる。三の丸尚蔵館には約9800点の所蔵品があることから、今後は国宝・重文ともに大量の指定を受けることになりそうだ。

さて、新しく国宝の指定を受けた文化財が早くも京博に展示されていた。春日権現記絵で昨年秋の皇室の名品でも出品されていた。まず、作品のキャプションが修正なしで国宝となっていた。作り替えたのかもしれないが、素早い対応で驚いた。藤原氏氏神を祀る春日大社の霊験が描かれた絵巻物で、やまと絵の最高傑作のひとつとされている。名品の絵巻物の多くは茶室用に断簡されてバラバラになっていたり、紛失・焼失によって失われたしていることが多い。しかし、皇室に伝わった春日権現記絵は全20巻がコンプリートされた状態で伝わっている。京と書いてみやこと読ませているこの展示会に相応しい古都・奈良の歴史が知れる作品で、現存する春日大社と変わらない部分が多く描かれているので見ていて楽しめる。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。