国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

禅機図断簡 智常禅師図 因陀羅筆

静嘉堂@丸の内の第2室は入り口からは対面となる。こちらは大陸から渡ってきた品々を展示。前期に訪れたので宋~元時代のものが中心だった。伝馬遠筆の風雨山水図や伝 夏珪筆の山水図が並ぶ中、伝牧谿の羅漢図がお気に入り。牧谿特有の薄墨を用いた背景は長谷川等伯の松林図屏風に通じる。羅漢の瞑想の深さと背景がシンクロして、見ていて引き込まれそうだった。ほかにも景徳鎮の磁器、油滴天目などの陶器も並ぶ。

どの展示会でもユニークさが際立つ国宝が因陀羅筆の禅機図断簡である。真面目に描いてはいると思うのだが、その構図や顔の表情がなよなよとして力強さが全く感じられない。禅道に通じていないためなのか、見ているとなぜか心がざわつく。綺麗や美しいとは対極にあると思える水墨画で、しかもおじいさんしかいないにも関わらずである。禅特有の説教臭さが感じないためかもしれない。

倭漢朗詠抄 太田切 静嘉堂文庫美術館

世田谷にある静嘉堂文庫美術館の品々が東京駅からほど近い場所で観ることがようになった。場所は丸の内の明治生命館で、その名も静嘉堂@丸の内。三菱1号館美術館は道路を挟んですぐの区画にあり、三菱系美術館のコラボ企画が期待できそうだ。

さて、丸の内の明治生命館は歴史的には占領下のGHQに接収され、昭和天皇マッカーサーが対面して写真が撮られた場所として知られている。近代建築物としては1997年に昭和に建築されたものとして初めて国の重要文化財に指定された。歴史的かつ文化的な建物である。その中に美術品の展示室を作る発想が素晴らしすぎる。美術を愛でながら、建物から出る雰囲気を味わう至極のひと時となること間違いなし。

新規オープンの企画は響きあう名宝と題して静嘉堂文庫美術館が所有する名宝の数々と国宝7点をすべて見せる(国宝は前期のみが出そろう)。昨年の三菱150周年記念展でも見たものばかりだが、重要文化財の建物で観られるとなっては行くしかない。

まず、丸の内の明治生命館の周りを含めて大改装が行われていたようで、展示場の入り口は外ではなく、エントランスの室内からとなっていた。最近の美術館では多い、ビル内展示場を思わせるが、入ると雰囲気は一変して重厚な建物であることが伝わってくる。ただ、壁などは綺麗な透明な板でデコレーションして、文化財保護と古さを忘れさせる配慮がされていた。

中に入ると、中心部に2階までの吹き抜けのホワイエ(休憩スペース)があり、鏡張りでハイジュエリーでも販売しそうな雰囲気であった。ホワイエを囲むように3つの部屋+1部屋があり、そこが展示場となっている。昭和の建物でビジネス用に造られた執務室を改装しているので、個々の部屋自体はそれほど広くない。

第1室は入り口から見て右側の部屋で、静嘉堂文庫が誇る茶道具を展示していた。千利休生誕記念の展示会が各地で行われており、名物たちがこれでもかと共演している。本来ならばそこに静嘉堂文庫所蔵が大量に出ていてもおかしくないはずだが、さすがに丸の内デビューを優先した。大名物の唐物茄子茶入付藻茄子、松本茄子、木葉猿茄子の3つが並び、虚堂智愚の墨蹟が花を添える空間は、戦国大名なら末代まで伝えられる最高の接待となったことだろう。

そして、同室唯一の国宝である倭漢朗詠抄があった。舶来でカラフルな唐紙に金銀泥で下絵が描かれた上、仮名文字と漢字が交互に書かれ、流れるような出来栄えとなっていた。茶室の床の間ように断簡されることがあるため、このサイズで残っているのも素晴らしい。茶道具の横で掛け軸状になっていない書を見るのも新鮮だった。

【東博150年】梨地螺鈿金装飾剣

町田久成が書いた「博物局」

第1会場の鑑賞を終えて、ミュージアムショップブレイク。特別展ではオリジナルグッツが大量に販売されるので、買い物客でごった返すことが多い。その対策として一人1回の購入のみに限定にすることで混雑回避していた。しかし、どれも値付けが若干お高くなって、手が出せそうなクリアファイルも他の展示会で沢山買っているので悩ましい。

購入は後回しにして、今回の展示会の目玉陳列である東博所有の国宝刀19振すべて一堂に展示する部屋と入る。ここがお目当ての刀剣女子たちが滞留しているため、結構な混雑ぶり。あれも、これもと日本刀を見ている影のみが見える中で、一番奥の展示スペースが空いていた。

ここには装飾系?の刀たちが展示されていた。梨地螺鈿金装飾剣や群鳥文兵庫鎖太刀 刀身銘一で、豪華さで言うとこちらが注目されてしかるべきだ。実践向きではないが、その当時の贅沢の限りを尽くして拵えたものである。

梨地螺鈿金装飾剣の真骨頂は鞘。キンキラキンの金物が覆う中にあって時折見える下地は梨地。その梨地には尾長鳥の螺鈿細工が施されている。朝廷の儀式のときに正装した高位の公家が帯びた剣で、装着には天皇の許可が必要なぐらいの高級品である。

刀の間の混雑を抜けると、東博150年の歴史に沿った展示となる。東博が出来た時に掛けられていた町田久成揮毫の「博物館」の看板もあった。本館には同じく町田久成揮毫の博物局の書が展示されていたが、特別展を見てから本館のものを見ると感慨深い。

東博の成り立ちとして寄贈による蒐集や、開館当時はキリンのはく製も収集対象だったなど、150年の変遷を展示物とともに解説していた。東博150年展は始まったばかり。あと1回は観に行きたい。

【東博150年】舟橋蒔絵硯箱 本阿弥光悦作

法隆寺献納宝物、考古、漆工のコーナーは中心に漆器、周りを囲むように法隆寺献納宝物と考古の国宝たちが並ぶ。ただ、漆器を展示する空間を演出するためか、大きな柱や幕などで仕切りがあり、全体的に見学できるスペースが狭くなっており、混雑していた。

法隆寺宝物館や、平成館の一角にある考古の展示スペースは、普段の展示では人がそう多く見てない。ゆったりとした空間のため、個人的には好きなのだが、特別展では賑わいが必要なため工夫したのだろう。普段ならば独り占めできる法隆寺関連や考古を時間をかけて見るよりもここでは漆器に注目した。

部屋全体は少し暗めで、こちらは漆器の金細工がスポットライトで目立たせる演出。舟橋蒔絵硯箱は蓋が盛り上がって鉛板を大胆に配置することで、川に架かる橋に見立てる斬新さデザインに作り上げた。そこに歌文字の配置して古典と工芸の融合。本阿弥光悦の真骨頂である蓋はフラットという既成概念の打破と鉛板を大胆に配置する勇気、そこに古典の知識に裏付けたデザインが見事にマリアージュし完成した作品となっている。古い国宝に囲まれて中心にあって古典復古とも言える斬新な硯箱である。

【東博150年】古今和歌集 (元永本) 上帖

NHKでは「東京国立博物館のすべて」に合わせた番組が矢継ぎ早に放送されている。BSプレミアムでの開幕直前の会場での内覧生中継を皮切りに、英雄たちの選択、歴史探偵、日曜美術館と切り口を変えて紹介した。そして今後は、チコちゃんに叱られる!で取り上げられ、鑑賞法は無限大!「未来の博物館」へようこそ!で一旦の区切り、まだまだ取り上げる予定のようだ。続いて、民放の美術関連番組も取り上げないはずがないので、ビデオレコーダーの予約に余念がない。

さて、東博150年展は平治物語絵巻、雪舟2作を見終えた後は、書、そして中国画のコーナーとなる。書は刀の次に分かりにくい代物。絵や金工、彫刻などは見れば分かることが多いが、刀は同じに見えてしまう一方で書はどれも全く違うが個性が強すぎるものや、書いた背景が国宝となっていることがあり、一見しても評価しにくい。会場でも、小声ではあるが使用されている紙の艶やかさを絶賛しているのは聞こえたが、書体の評価はあまり聞かれなかった。

書跡で一番人を集めていたのが古今和歌集(元永本)。ヘッドホンでの解説があったとはいえ、展示してあった国宝の書跡の中で、教科書に記載されていた記憶が残っている作品だったためだろう。

元永本はすべてが完全に揃っている最古の写本で、色染めした紙に中国風の型文様を雲母で刷り出した上、金銀の切箔や砂子をまいた華麗絢爛に仕上げている。紙自体が芸術性が高く、国宝の金工細工に引けを取らない出来栄えである。その上に古今和歌集を書いているのだから、書体のうんぬん評価がなくても視覚的に見とれてしまう。

個人的には賢愚経残巻(大聖武)が大きな文字で力強く書いているので見応えあった。また、東洋書跡も同じ空間にあり、漢字文化圏ならではの空間演出となっていた。

【東博150年】平治物語絵巻 六波羅行幸絵巻

東博150年記念展第Ⅰ期の一番人気は平治物語絵巻だった。第1会場から次へとつなぐスペースに陳列していた。長めに展示してあったがどこも見物の列が途切れることがなかった。逆に普段は人気の高い雪舟作品が端へと追いやられ、注目を浴びていないのが新鮮だった。

ついこの間まで東京都美術館で開催されていたボストンの至宝展では、里帰りしていた平治物語絵巻の三条殿夜討巻を公開していた。国内にあれば国宝級と言われる逸品だが、実物を見たらなおさらそう思えた作品である。とくに逃げ惑う人々の様々な表情や炎上する火の表現などは古さを全く感じさせない出来栄えだった。

東博所有の六波羅行幸絵巻は間違いなく国宝である。内裏に幽閉された二条天皇が牛車で脱出して、平清盛のいる六波羅邸へと行幸するシーンが描かれている。武士たちが天皇行幸に対して出迎える場面は、追っ手を蹴散らすために武装しつつ、二条天皇に対して礼を尽くす姿勢が表れており、錦の御旗が大事なことが分かる構図となっている。三条殿夜討巻を見た人ばかりではないだろうが、人気を集めるのに十分な作品であった。

ただ、残念なのが展示期間の短さと、ボストン美術館との同時期展示ができなかった点。戦国絵巻展などがあれば、展示の中心となること間違いなしの作品である。

【茶の湯】曜変天目 龍光院

京博で開催中の茶の湯展の最初の2週間。龍光院所蔵の曜変天目がお目見えしていた。以前、藤田美術館学芸員が「国宝の曜変天目は公開がなぜか近接した時期になることが多い」と言っていたが、まさにその通りとなっている。4月にリニューアルオープンした藤田美術館ではオープニングの目玉。同じく丸の内へ場所を移して開館した静嘉堂文庫は10月にオープンして、いずれも曜変天目を展示・公開している。

龍光院所蔵の曜変天目は2017年の京博で開催した国宝展で久々の登場だったが、2019年のMIHOミュージアムで開催された展示会ではその名もずばり「大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋」であった。この2019年は3つが同時期に公開されたことから、記念のクリアファイルまで作られていた。(買っちゃいました)

それまで、ほぼ見ることができない国宝の1つであった龍光院蔵の曜変天目がコンスタントに展示会へお目見えしている。国宝ファンとしては、いつ非公開になってよいように追いかけてしまう。

今回の展示も、2017年の国宝展同様に1階の奥にある階段下の個室で展示。久々の公開だった前回は行列が出来ていたが、列はできず数人が入れ替わりで見ていた。さすがにこの5年で3回も公開されると、そこそこの人気に落ち着く。

龍光院曜変天目は、なかの斑点は他の2つに比べて小さく、その分輝きも少ない。ただ、底の方へいくと星空のように散りばめられたようになっており、ブラックホールに吸い込まれるように見える。見れば見るほど輝きの美しさに魅せられる。残念なのが器の外側に光が余り当たっていない点。藤田も静嘉堂も外側にも輝きが見えるので、光量さえあれば輝く。

さて、曜変天目の周りには国宝が並ぶ。圜悟克勤墨蹟の印可状、 馮子振墨蹟・易元吉巻跋、宮女図などが周りを囲む。国宝展ばりのラインナップで、曜変天目に対しての厚遇が窺える。龍光院曜変天目は近畿圏での公開ばかりだったので、次は関東圏での公開を期待したい。それか国宝・曜変天目たちの共演だ。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。