国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

桜ヶ丘遺跡出土 銅鐸・銅戈 神戸市立博物館

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東京オリンピックパラリンピックが終わった。今回はパラリンピックのテレビ中継が多かった気がする。そこで、健常者スポーツでメジャーなものは各団体の世界大会に任せて(現に超一流選手が揃っていない)、パラリンピックとマイナー競技の大会にして、商業主義と決別すれば批判もなくなると思った、そんな東京大会だった。

さて、開会式で話題となったピクトグラム(絵文字)の演出。どこかで見たことがあると考えていたが、その答えが神戸市立博物館の国宝にあった。

神戸市立博物館は昨年リニューアルオープンした。それまでの国宝・桜ヶ丘遺跡出土(銅鐸・銅戈)展示方法は神戸の歴史の時系列展示の一部として展示していた。出土した雰囲気を伝えるため、土を盛ったような所に陳列していたため、国宝の神々しさはなかった。今回のリニューアルを機会に国宝単独の展示部屋を設けて、それぞれを見やすく独立したショーケースに収めていた。この銅鐸表面には簡略化された人や動物が描かれていた。人は動きのあるものが描かれているので、古代からピクトグラムは活用されていたことが分かる。

専用の国宝展示室は黒を基調した造りで、周りを意識することなく集中してそれぞれをじっくり見ることができる。隣の部屋には教科書でもお馴染みの重要文化財聖フランシスコ・ザビエル像(普段は複製)もあり、これを見るためだけでも常設展示を訪れたくなる。

伊能忠敬関係資料 伊能忠敬記念館

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伊能忠敬」展が神戸市立博物館で開催されていた。伊能図を上呈して200年を記念しての展示会となっている。子供連れが多く来ていたが、今やGoogleMAPがないと不便を感じる(昭和生まれの)スマホユーザーたちが、伊能忠敬の足跡と細かく書かれた地図を見て、すごいとの感想が次々に漏れていた。だが、再現しようとは誰も考えていなかったことだけは間違いない。

まず、伊能忠敬は日記をつけて測量に取り組んでいたので、いつどの場所で計測したかが残っていた。道具は辺りまでだがアナログのものばかりで、文字通り足で稼いだ測量であったことが分かる。さらに、この測量自体が自費(家業を隠居した際の慰労金?)で活動していたのだから驚く。彼は何をもってそこまで駆り立てたのかが全く理解できない。しかし、この測量への情熱がやがて幕府に認められ日本全土を測りまくることにつながり、それを地図へと落とし込んだ。まさに前代未聞の作業であったことは想像できる。

この地図が西洋へと渡り、日本の底知れる粘り強さの一端を見せたことで、明治維新の時に植民地にされなかったとも言われている。伊能忠敬のおかげで今日の日本があるのかもしれない。

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さて、展示はご当地である神戸が載っている瀬戸内の地図を展示していた。大きさだと両界曼荼羅図ぐらい大きな紙に西日本全体が描かれていた。そこに地域名を示す文字が細かく書かれているため、子供と年寄りが口々にどこにその文字があるかと聞いていた。望遠鏡を準備して見に行くことをお勧めしたい。

色々な地域の地図が展開されていたのだが、何点か観ている内に食傷気味になってきて、飽きてくる。変化がほぼない地図を観ているのだから仕方ない。地図にある地域で同時代に使用されていた古民具などを展示する変化があっても面白かったかもしれない。

 

【京の国宝】小桜韋黄返威鎧 厳島神社

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京の国宝も後半戦へ突入。メインビジュアルとなっている俵屋宗達風神雷神図屏風は1週間限定での展示だった。年始のアーティゾン美術館の企画展「琳派印象派」でも感じたが、期間限定の作品がメインを飾っていると、特別展期間中はいつでも会えると勘違いしてしまうので、なるべくなら通期展示のものにしてほしい。

さて、後期のお目当ては風神雷神ではなく、厳島神社の小桜韋黄返威鎧だ。ここ数年、ほぼ展示会などには出品されていない。展示場所は1階の奥の独立した部屋の中央に飾られていた。2017年の国宝展では曜変天目などが展示されていた位置で、360度どの角度からも見ることができる絶好の配置となっていた。

小桜韋黄返威鎧は兜と鎧が一つのショーケースに別々で置かれていて、ちょうど良い目線で両方とも見ることができた。戦が活発化して源平盛衰の世の中となった平安末期の製作物とされ、源為朝が奉納したと伝わっている。甲冑の板を結びつける糸がとても綺麗で、同部分の文様もはっきりと残っていた。兜に飾りの角がなく頭部がシンプルなのも時代を感じる。実戦的に使用するというより、奉納を主眼とした美術品と言って間違いない。

国宝の甲冑は十数点しかなく、奉納された神社で大切に守られてきた。指定を受けているのは櫛引八幡宮、武蔵御嶽神社、菅田天神社、春日大社大山祇神社、そして厳島神社のものだ。全国に散らばっている上に、春日大社厳島神社は特別な機会に少しずつ展示されるので、その機会を見逃さずに会いに行くことが必要だが、菅田天神社のものは公開そのものがほとんどない。小桜韋黄返威鎧を観れたことで甲冑国宝完全観賞までもう一息となった。

【京の国宝】金銀鍍宝相華唐草文透彫華籠 神照寺

京の国宝で一番見ごたえがあった展示は神照寺の金銀鍍宝相華唐草文透彫華籠16面と寺から流出した3面を合わせた計19面の一気展示だった。もともとは20面あり、ハワイへ旅立った1面は里帰りを果たせなかった。それでも一度に19面もの華籠が展示されているのは壮観で、1面単独や他の種類の華籠との競演でしか観たことがなかった金銀鍍宝相華唐草文透彫華籠が国宝すべてと流出品を合わせた形で会えたのは良い機会であった。

華籠は唐草文様の透かし彫りで、くねくねと曲がった蔓とその先に花を咲かせたり、つぼみで咲く手前だったりと意匠性に富んだものとなっている。奈良博三昧を観た後で奈良県立美術館で開催されていたウィリアム・モリス展を観に行ったが、そのデザインの素晴らしさが平安時代の日本の工芸職人にも備わっていたと思うと、改めてレベルの高いものを観ていることに気づく。着物の柄などで繰り返し同じデザインを重ねてパターン化するのは大量生産ができる近現代なら合理的だが、中世において同じパターンのものを手作りするのは大変な苦労があったに違いない。様々な国宝が出品されていたが、最終盤になってに圧倒的な質量での展示はまさにみやこの宝であった。

【奈良博三昧】金剛般若経開題残巻 空海筆

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奈良博三昧の国宝出品は通期展示を除くと前期が多くて、後期のみは辟邪絵と金剛般若経開題残巻だった。金剛般若経開題残巻は空海筆で、前期に展示のあった最澄筆の久隔帖と見比べたい逸品である。

最澄と違い空海は平安の三筆に選ばれるぐらい書の名人のイメージがある。高野山で開催中の霊宝館開館100年の展示会では若き空海が書いた聾瞽指帰が展示。若さゆえの力強さが感じられる作品である。一方で金剛般若経開題残巻は優雅にリズムよく書かれている。経典と言えば写経生によるきっちりとした字で書かれたものをよく見るが、個性的な書き方の古いものを見る機会はなかなかない。

奈良博三昧は仏教の殿堂として奈良博が誇る所有物を惜しみなく公開した展示会で、同館所有物のみで構成したことからすべて写真撮影までOKだったので大満足の展示会だった。惜しいのは仏像館の方でもすべて撮影可能だった最高だったが、高望みなのかもしれない。

 

【京の国宝】春日権現記絵 宮内庁三の丸尚蔵館

コロナ禍においては、移動制限がある中で文化財の審査作業に大きな影響が出ている。2020年3月に発表された新国宝は4件で、毎回指定替えを受けて開かれる東博での特別展は緊急事態宣言発令により中止となった。続いて同年10月にも八坂神社本殿が指定を受けたが、2021年は春先の発表はなかった。地方行脚ができない状況では致し方なく、落ち着くまでは八坂神社のように有名どころで今更な指定替えがあるぐらいだと高を括っていた。

この高が当たるとも遠からずで、7月に新国宝の発表があった。しかも、重要文化財でなかったものを重文・国宝と一度に指定してしまうという正倉院以来の荒業である。正倉院は古都・奈良が世界遺産の指定を受けるにあたって、指定される対象が文化財の指定を受けていないと認められないとの規定から建物だけ指定を受けた。(そのため、正倉院の中のものは国宝でない)それ以来のことになる。

指定を受けたのは、いずれも宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵する5件で、天皇家に伝わってきた文化財で個人の所有物とみなされた品が相続の兼ね合いで国有となったものだ。いわゆる御物だったもので、国宝の指定を受けたことになる。

個人所有の文化財の中には所有者の意向で重文や国宝の指定を受けていないものがある。所有者が目立つことを嫌うためが多いそうだがそれとは違い、宮内庁三の丸尚蔵館の所蔵品は慣例的に指定を受けていなかった。今回の指定の背景には観光立国を目指す日本の国策として、昭和までは御物だった文化財と国宝の境目をなくして、海外からの観光客に分かりやすくする狙いがあるそうだ。また、文化財の指定を受けたことで、一定の公開義務が生じることや修繕などの補助金を付ける(宮内庁所有なのでお金の出どころは国税で変わりないのだが)ことが可能となるなど、一般的な文化財と同等の扱いができる。三の丸尚蔵館には約9800点の所蔵品があることから、今後は国宝・重文ともに大量の指定を受けることになりそうだ。

さて、新しく国宝の指定を受けた文化財が早くも京博に展示されていた。春日権現記絵で昨年秋の皇室の名品でも出品されていた。まず、作品のキャプションが修正なしで国宝となっていた。作り替えたのかもしれないが、素早い対応で驚いた。藤原氏氏神を祀る春日大社の霊験が描かれた絵巻物で、やまと絵の最高傑作のひとつとされている。名品の絵巻物の多くは茶室用に断簡されてバラバラになっていたり、紛失・焼失によって失われたしていることが多い。しかし、皇室に伝わった春日権現記絵は全20巻がコンプリートされた状態で伝わっている。京と書いてみやこと読ませているこの展示会に相応しい古都・奈良の歴史が知れる作品で、現存する春日大社と変わらない部分が多く描かれているので見ていて楽しめる。

【奈良博三昧】木造薬師如来坐像

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奈良博三昧は写真撮影がOKだった。展示会を振り返るために図録を買えばいいのだが、自分で撮った写真も思い入れがあって見ていて楽しめる。

あと、自分で撮れることから図録にはない、色々な角度からの写真撮影ができる。普段は見ることすら難しい仏像の背後も陳列形式によっては可能だ。奈良博唯一の国宝彫刻である木造薬師如来坐像も色々な角度から激写した。

案外、人気が高くなかったのでバシャバシャ撮れたが、キービジュアルに採用された伽藍神立像がその後ろに控えていたためかもしれない。動きのない薬師如来より躍動感あふれる伽藍神の方が”映える”写真が撮れるためだ。祈りの場では静的な仏像がよいのだが、展示会だと動的な方が好まれる。慶派の仏像などはまさにそうで、展示会に出ていれば必ず注目を集めて人だかりが出来ている。動的仏像展があれば人気がでる企画になりそうだ。

国宝拝観者たちの夢、千件越えをいつの間にか達成した。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標が完結した。 次の1100件は果てしなく遠いので、1050件を一区切りにしよう。