大学で国宝を所有しているところはそれほど多くない。東京大学が島津家文書、早稲田大学はつい最近公開があった礼記子本疏義と玉篇、東京芸術大学にも絵因果経と観世音寺資材帳、慶應義塾大学の秋草文壺は東博で頻繁に展示されている。地方では東北大学が類聚国史と史記、京都大学、龍谷大学、大阪青山大学が保有している。
名だたる大学が並ぶ中で、最も国宝を所有しているのが天理大学。実に6件を保有している。この内の半分、3件を出展した特別展を開催。天理大学が所有する中国古典の名品を紹介する内容で、国宝以外にも多くの重要文化財の書跡を所有しているため、豪華なラインナップとなっている。東京でも春ごろに開催した内容を巡回しており、天理の本部では参考館での開催となった。いつものように特別展は3階の1室を使用。中国の歴史的な書跡が並んだ。
まず最初に展示していたのが南海寄帰内法伝。唐時代の僧である義浄が旅した内容を記した見聞録である。インドへの留学を終えて、中国に帰る道中で立ち寄った東南アジアについて書かれており、当時の風習などが分かる貴重な資料となっている。玄奘三蔵が記した大唐西域記と共に、同時代の世相を知る上で重要な文献である。
義浄が中国に戻ると武則天自ら出迎えた。国家事業として仏典の漢訳を行う訳経を担当し、金光明最勝王経などの漢訳などを行った。いま漢字の経典があるのも、この時に整備したから。梵語なら読むのに苦労していたはずだが、漢字なのでなんとなく分かったように思えるのはこの事業の賜物である。