国宝を観る

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国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

春秋経伝集解 藤井斉成会有鄰館

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有鄰館は謎の博物館だった。

京都・岡崎の絶好の立地にあり、近くには平安神宮を初め、リニューアルオープンした京セラ京都市美術館や京都近代美術館、細見美術館など芸術好きが集まる場所にある。にもかかわらず、行きたくても開いていないことがほとんどだった。

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岡崎で一番目立つ鳥居から東山駅へ向かう帰り道に必ず視覚に入る中華風の八角堂は有鄰館の象徴で、初めて見た時は中華料理店があるのだと勘違いしてしまった。しかし、その後も何度見ても開いていないので、謎だけが残って数年が経った。

そして、国宝に目覚めた時に、国宝を所有してたため、その謎の一部が解明された。有鄰館という名前で我が国最古の私立美術館である。第一、三日曜日にしか開館しないにも関わらず、1月と8月は休館という年20日しか開かない。この20回の内で国宝は展示されているのか。ネット情報を元に5月と11月の第1日曜日が公開の有力情報だったので、11月1日に行ってみた。

まず、11時に到着するものの、表門は開門せず。写真のような立て看板が立っているのでオープンはしているようだ。数分考えこんで、ふと見上げると裏口の出入り口表示があった。正面右側の道路を入ると、第一館と第二館をつなぐ門があった。門からすぐ見えるのが第二館なのだが、チケットは第一館で購入する必要がある。入館料は第一が1300円、第二が600円となっていた。

第一館は武田五一設計の東洋風のコンクリート造り。1926年の開館当時からの佇まいを残している。なので、少し埃っぽい。陳列しているものは殷代から清朝までの文化財で、一階には石仏など、二階は器、三階は絵画や書跡となっていた。昔の博物館を思い起こす木枠の陳列棚に曇ったガラス、大きなものはワイヤーで固定されていたり、納まりきれないものは地べたに置かれる、説明書きは手書きなど、昭和の香りがぷんぷん薫る展示方法だった。

展示内は一級品が多く、重要文化財や重要美術品がそこかしらに展示されている。設立者の藤井善助は近江商人で、上海で学び、犬養毅に薫陶を受けて辛亥革命により西洋列強に文化財が流出を留めるため収集し、公開の場所で展示する美術館として有鄰館を設立した。

さて、ひとしきり展示物を観ていったが、本命は国宝。3階に上がり螺鈿朱漆寝台が出迎えて左を向くと書跡ゾーンがあった。黄庭堅の詩が奥にあり、手前に国宝の春秋経伝集解があった。解説には唐から日本にもたらされたもので、明治に大陸へ移ったが再び日本に戻ってきたと書いてあった。不思議な運命を辿った書である。第一館で気になっていた屋上の八角堂や貴賓室は見ることができなかったが、もし特別公開されるのならば一度見て観たい。

続けて、第二館にも入る。こちらは建物が国の有形文化財で、昭和天皇犬養毅なども往来があった。2階に仏殿があるのが微妙な配置だが、概ね西洋風の内装になっている。1階のトンボの間はシックでいつまでも滞在したくなる雰囲気を醸し出している。大通りからは全く見えないのが残念である。

謎だった有鄰館はキングダムが流行っている今こそ注目される美術館だ。東京で美術品を貸し出した展示をすれば結構注目が集まるだろう。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。