国宝建築物で五重小塔は2件ある。小塔は本物を小さくした模型のようなもので、解体すると持ち運びも可能な大きさ。ともに奈良県にあるのだが、ひとつは海龍王寺にあり、もうひとつが元興寺にある。
本体の塔自体が落雷や突風、地震などの自然災害に弱く、戦災や放火など火にも弱いことからよく失われている。小塔模型を作ることで作り直すための最高の参考資料になり、大工の創意工夫をそのまま継承することができ、再建するときの最良の手本ともいえる。しかし、作った当時の寺社の勢いがあれば簡単に進むかもしれないが、時代が流れてお布施も集まりにくくなり、パトロンもいないとなると小塔だけが残ってしまう。いつしか、本物を再建する野望どころか寺社の境内が召し上げられてしまい、再建スペースがなくなってしまい夢敗れてしまう。そんな歴史の証人としての価値のみとなった小塔でも作った当時の大工が本物に負けないぐらいの手の込んだ細工が施されている。工芸品ではなく、建築物扱いなのは大工の造りし物だからなのだろう。人が誰も入れない建物が国宝に2つもあり、それほど遠くない場所にある。京都にない奈良だけの魅力なのにほとんど伝わっていないのが残念だ。