正恒は友成と並び称せられる古備前派を代表する刀工である。国宝には5口が指定されているが、その中でもふくやま美術館が所蔵しているものは正恒の典型的な作風とされる。太刀は全般的に大柄なため力強いを感じるが、同館のものは反り具合が絶妙で美しさも兼ね備えている。阿波・蜂須賀家伝来太刀で由緒も正しい。
蜂須賀家から流出した同刀は、脚気改善薬で莫大な富を得たわかもと製薬の長尾よねの所有となる。長尾よねは太閤左文字を購入するなど、骨董蒐集にハマり、その中に正恒もあった。
長尾よねの逸話として戦後すぐ、GHQが刀は武器であるということで、回収命令を出すと知った本間順治がよねに相談した。そこで内閣総理大臣・東久邇宮稔彦王に訴え出て広く知られるようになり、美術品としての刀は武器ではないと回収を免除された。このこともあり、国宝指定の初期の頃に刀が大量に指定を受けている。