国宝を観る

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国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

白楽茶碗 銘不二山 本阿弥光悦作

国宝の陶器は12個あり、すべて見るには龍光院曜変天目が一番の難関だと思っていた。しかし、京博の国宝展、MIHOミュージアム龍光院展、そして、10月に京博で開催される茶の湯展でも展示され、難攻不落どころか数年ごとに公開している。

その代わりではないが、最後まで見る機会がなかったのがサンリツ服部美術館所蔵の白楽茶碗だ。まず、サンリツ服部美術館の所蔵品の外部貸しは多くない。加えて、自館で常設展はなく、企画展ではテーマが合わないと展示されない。今回、服部一郎生誕90周年記念を記念した「名物 記録と鑑賞」でようやく見ることが出来た。

服部一郎は時計のセイコーから派生するセイコーエプソン初代代表取締役社長で、セイコーの創業者・服部金太郎の孫にあたる。諏訪湖のほとりに本社があるセイコーエプソンにちなんだ場所に美術館を構えており、遠方のためなかなか足を運ぶことができなかった。

服部金太郎は戦前の実業家で国産時計を製造し、時計の大衆化に成功し莫大な利益を得た。その流れを継いで、戦後もセイコーの関連企業は精密機械の分野で大成功した。企業の成功と争うように、美術品の蒐集も活発で、同館は国宝2点、重要文化財20点弱を所有している。

サンリツ服部美術館は上諏訪駅から温泉街を横目に見つつ北へ歩いて15分ほどでつく。すぐ隣にはバルブ製造のキッツ創業者・北澤利男が創設した北澤美術館がある。道中に旅館が多くあり、ちょうど宿泊⇒観光施設という流れで建てられている。そのため、美術館だけを目的に訪れる人にはやさしくない立地(温泉街からは一番遠い場所)で、宿泊するなら湯冷まし散歩を兼ねてのんびりと訪れることをお勧めする。

展示は2階の2室のみ。両サイド分かれた展示室で、間を喫茶スペースが埋める。ちょうど諏訪湖を見渡せる優雅な喫茶室になっているので、こちらも時間があれば満喫すべきである。

展示会は名物と謳うだけあり、茶道具関連が多く、明治から大正にかけた大実業家たちの好みそうなものばかり。この秋は徳川美術館で名物をテーマ企画展を開き、京博でも茶の湯をテーマにしていることから、本展示会でも千利休生誕500年記念を意識したのだろう。

数々の展示物があり、その最後の展示を飾るのが国宝・白楽茶碗。独立したショーケースで展示しているので、360度見ることができた。本阿弥光悦が気に入っていた楽焼の手法で作り上げた傑作。手で造形して焼き上げたごつごつとした陶磁器の肌には、上部が白、下部が黒く仕上げられていた。これが白雪を頂く富士山の連想と、偶発的に出来上がったことを掛けて、不二(二度とできない)山と命名された。本阿弥光悦自身の書付けがあり、光悦茶碗と知られる中で共箱はこれ一つであることから、国宝となっている。紆余曲折あって姫路の酒井家に伝わり、服部家の手元に渡った。

本阿弥光悦作品は国宝で東博の舟橋蒔絵硯箱があり、書跡は寛永の三筆と呼ばれるなど高い芸術性を持った作品が伝わる。また、俵屋宗達とのコラボ作品や、時代を下ると尾形光琳・乾山兄弟や楽家と姻戚だったり、江戸初期の日本美術史に欠かせない人物だ。鑑定士ではないが思わず「いい仕事してますね」と言いたくなる名物を見ることが出来た。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。