国宝を観る

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国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

2022年を振り返る

2022年はアフターコロナのニューノーマルが博物館や美術館で確立された年となった。基本的には体温を測り、アルコール消毒をし、マスク着用で日常的な展示会の観覧が可能となった。それに、混みそうな展示会は完全予約制を取って万全な対策を講じて実施していた。

このアフターコロナ対策で良い面をもたらした。完全予約制は制限なしで入場させる殺人的な超人気特別展を撲滅させた。東博150周年の所蔵国宝すべてみせますは、もちろん完全予約制だったので、なんとか見ることができるぐらいの人混みだった。特に刀剣を飾っていた一室は予約がなければ身動きできない空間となっていたかもしれない。コロナ前の京博での京の刀展や福岡市立博物館の侍展では人気の刀を見るためにできた行列を知っているだけに、そこそこの混み具合、姿は見えるぐらいには納まっていた。

一方で、完全予約制のため、思った日時でチケットが取れないこともあった。また、少し時間が空いたから気軽に見に行くということが難しくなった。なので、中間的なチケット販売方法として、土日祝日の混雑が予想される日だけを予約制にするとか、基本的には予約制だが当日に空きがあれば(割り増しにはなるが)入れるという美術館もあった。ハイブリット型は選択肢の幅が広がるので、ぜひ普及してほしい。

今年はリニューアル開館も多かった。藤田美術館は旧館と同じ場所に建物すべてを一新して4月にオープンした。低層でオシャレな美術館だが、入り口と出口に旧館で使用されていた展示室(蔵)の扉をそのまま使用していて、新旧が味わえる建物となっている。静嘉堂@丸の内は世田谷から展示のみを移して場所を替え再スタート。建物が重要文化財明治生命ビルのホールを活用。もともとは保険を扱うために設計された空間なので、美術品を展示するために温度や湿度、空気管理できるように大改装した。重厚な外観とは打って変って、ガラスを多用した眩い室内となっており、ブランド品か宝石を扱う店舗と見間違うぐらい、高級な感じに仕上がっていた。両美術館共にまとまった国宝を所蔵しているので、何度となく訪れることだろう。その度に弾む足取りとなることは請け合い。行きたくなる美術館に仕上がっている。

2022年の国宝拝見を季節で分類すると冬はコロナで延期となっていた聖林寺の奈良博展と、昨年の秋から巡回している最澄天台宗のすべてIN京博が印象的だった。春には甲信の国宝建築を堪能。待ち望んでいた出光美術館の再開を祝福する企画として修繕を終えた手鑑・見努世友が登場したのはうれしいサプライズだった。当麻寺には2度訪問。奈良博では当麻寺の特別展があった。奈良市内では巨大な寺院が目立つため、奈良郊外の寺院(聖林寺当麻寺以外にも)にスポットを当てた展示会は小粒だがピリッとした展示会になる傾向がある。その意味で大安寺展も、知れば知るほど味が出る展示会となっていた。奈良県の観光標語ではないが、奈良を習うため、奈良の名刹をピックアップした特別展を奈良博にはもっと企画してほしい。

秋は夢のオールスター戦・東博150年周年だから出来た所蔵国宝全部見せます展に2回行った。企画趣旨は自館で持っているいいものを全部見せるだが、東博の全国への貸し出し実績を考えると調整が非常に難しかったことだろう。調整の結果、前期開催中は他館で展示していたが、後期に戻って展示していたものがいくつもあった。逆に展示が終了してから貸し出したものもあったのはサプライズだった。他館から借りて特別展を企画した方が、気は楽かもしれない。

また、同時期に千利休の生誕500年を記念した茶器の名品たちの展示が各地で行われていた。名物に注目した徳川美術館では手に渡った系譜を解説。いかに歴史的な大物たちの手に渡っていたか、逆にどういう経緯で下賜されたかなど想像系歴史好きにはたまらない企画だった。

三の丸尚蔵館所蔵品の全国行脚は岡山や広島、岩手などであった。三の丸尚蔵館所蔵品も国宝指定の対象となり、東京芸術大学大学美術館での開催展示では指定を受けた国宝がお目見えした。11月に文化庁三の丸尚蔵館所蔵品の喪乱帖、更級日記万葉集の国宝指定の答申があり、今後も増えることが予想される。

2022年に見た国宝ベスト3は、順不同で聖林寺の十一面観音像(の背後から見た風景)、平治物語絵巻(六波羅行幸巻)、本阿弥光悦作の白楽茶碗・銘不二山。

十一面観音像は現地では後ろを見ることは不可能な収蔵庫だったので、この機会に見ることが出来て満足した。東博へも見に行った十一面観音像だが、ガラスで覆われていたり、背景に三輪山の写真があったりと残念な点があった。しかし、奈良博では過剰演出は一切なし、ガラスケースすらない最高の見せ方だった。新しい収蔵庫へお戻りになったようなので、近くに行った際は1度訪れたい。

平治物語絵巻はボストン美術館展で見た1か月後だったので、続き物として楽しめた。ボストン美術館の三条殿夜討は国内にあれば間違いなしに国宝。炎の描き方は六道絵にみる悲惨さが浮き出るレベルであった。東博六波羅行幸は宮中から脱出する場面ではあるが、貴族たちのおっとりとした雰囲気と武士たちの力強さの描き分けが、時代の潮目が変わる瞬間として見て取れた。両展示会は共にかなりの人が来ていたので、もう少し観客が少なく落ち着いた雰囲気で見ることが出きたらなと思った。

白楽茶碗は国宝の陶器類で唯一見たことがなかった。本阿弥光悦作なので、織部焼のような派手な陶器を想像していたが、楽焼にしては派手と言った程度だった。焼き物の出来栄えは一期一会で、富士を模したネーミング通り、じっくり見て楽しめる景色を有した茶碗であった。諏訪湖の畔でゆっくりと鑑賞できる美術館だったのもよかった。

さて、2023年の国宝は親鸞が一大テーマ。春先から浄土真宗系の秘宝の公開が予定されている。中でも専修寺のものは三重で公開するので、ぜひ見に行きたい。東福寺浄瑠璃寺の特別展は期待大。ともに、所蔵品の修復を終えたタイミングでの企画だ。おそらく、再来年以降になると思うが、建物の大改修を実施中の大徳寺の寺宝展も開催される可能性が高い。

コロナが流行して3年が経ち、そろそろコロナ前に仕込んでいた展示企画が尽きてきた頃だと思う。真の意味でアフターコロナの展示会が始まる年になる。そこで金鉱脈として、三の丸尚蔵館が全国行脚を行っているが、それを模して東博の全国行脚が可能ではないだろうか。大阪市立東洋陶器美術館が改装工事に入って巡回していたり、東洋文庫も積極的に地方で企画展を行っている。尚蔵館に匹敵するグレードの所蔵品を持っているのは東博しかなく、次の150年に向けて地方にも目を向けた企画の実施を期待したい。

あとは、親和性の高い美術館同士でのコラボ展。西洋画系の美術館ではテーマ(印象派など)を絞って両館で見せ合う企画が度々ある。国宝の同系(例えば寒山拾得図)所蔵館で持ち回り展示なども面白いかもしれない。今年4月から続く大蒔絵展はそのよい実例となっている。

最後に、東博所蔵の国宝を一度に集めた次は、世界各国の国宝を集めた展示会、美術品のワールドカップの開催があれば、ぜひ見に行きたい。各国の代表美術品が並ぶ、夢の展示会。品数よりも質、国宝であるということが唯一の出品基準だ。丸紅美術館で開催中の展示会では国内では唯一の所蔵品となるボッティチェリ作品1つのみの展示で成立している。なので、参加してくれる国は少なくても良い。準備や保険など非常に大変なことが多いので、誰もやりたがらないだろうが企画してほしい。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。