道成寺は歌舞伎などの演目でお馴染みの寺。嫉妬にかられた清姫が安珍を道明寺へ追い詰めた。男が身を隠すために鐘の中に身を潜めた。鐘の中に男がいると気づいた姫が龍になって蒸し焼きにしたとの伝説が有名で物語として大衆に広まった。
そんな、物語の道具として必須の鐘だが、普段は同寺院にはない。なんでも、根來衆を成敗した豊臣秀吉が戦利品として京都へ持ち帰ったためだ。その鐘が製作者である万寿丸の生誕700年を記念してお里帰りをしていた。本堂のお前立の千手観音前に祀られている。
さて、この本堂の千手観音像は国宝ではない。国宝は大宝殿にある。そこには同寺院の誇る仏像群が鎮座しており、差し詰め仏像の見本市状態になっている。それでも十一面観音像は中心に配置されつつ、大きさで圧倒しているため、一番目立つ。両脇侍も国宝となっており、京都や奈良の大寺院にあってもおかしくない出来栄えだ。
そして、千手観音像はもう一つ、秘仏がある。それが本堂の裏側を見つめるように立っている大きな仏像で、鐘が帰ってきたことを祝して御開帳されていた。こちらは武骨で顔が大きい。都のある北側を向いていて、当地の娘を夫人に迎えた文武天皇が創建に関わったため、都の安寧を願っているそうだ。