畠山記念館の名品展はこれまで見た中でも指折りの”実用”している品々を展示している。実用といってもお茶会に使用してするために集められたという意味で、美術品として飾りものになっていないという意味での”生々しさ”が伝わってくる展示会である。
白金の記念館の敷地には全部で6か所も茶室があり、そこで開催される茶会に名品たちが登場している。なかでも、2階が展示スペースとなるコンクリート製の建物内にも四畳半の茶室「省庵」と茶庭が設けられており、美術品を見る傍らに茶室が見えるという他にない造りになっている。
茶室で一番目目立つのは掛け軸である。床の間の中心、座ると目線があう位置に飾られる軸は狭い空間に色々な意味を持たせる。たとえば書が飾られていると引き締まって凛とした気持ちになり、異国の風景画だと旅に出た気分になれる。この一幅の掛け軸があることで、同じ茶室であっても変化が生まれる。
伝趙昌筆の林檎花図は元はもっと大きく色々なものが描かれていたかもしれないが、掛け軸サイズに裁断されて林檎花だけの絵となった。まるで生け花のように、綺麗な一瞬を切って軸に納めている。華やかなピンクの花弁と、生き生きとした青若葉が生命の息吹を感じさせる。根津美術館が所蔵する鶉図同様に茶会用に仕立て直して価値が上がった作品だ。