根津美術館は都心の一等地にあるにも関わらず広めの庭園を備えている。入館者は無料で散策でき、同館が誇る燕子花屏風絵に合わせるように実物のカキツバタを活けていたり、所蔵の茶器や掛け軸などに合った茶室(入室不可)が4棟あったり、観る者を楽しませる工夫が至る所にされている。
素晴らしい庭園を多くの来館者に見せるための工夫として、同館は庭園に面した部分はガラス張りにしている。美術品を眺めながら庭園も楽しめるものもあり心憎い演出である。写真は1階フロアから出てすぐの一番目立つ街道で、紅葉が見ごろとなっていた。
この紅葉に負けない絵が那智滝図である。右上に大きな月(の痕跡)があり、山肌には紅葉がちらほら見える。そして、山肌のど真ん中から那智の滝が力強く落ち、自然の力強さを表現している。自然に神が宿るアニミズム的な絵ではあるが、そこから仏を感じる本地垂迹図の最高峰であることが感じる。八百万の神々は、実は様々な仏が化身として日本の地に現れた権現となる思想があり、その象徴的な絵画である。
しかし、思想的な面を抜きにしても那智滝の雄大さの描かれようは素晴らしく。ちょうど第1室から第2室に向かう直線状に立った時にこの図のみが見えるため、館内に多くの作品が展示されているにも関わらず、この図のみのための展示会だと錯覚できるぐらい唯一無二の空間に陥る。風景画としては縮尺や構図などで多少言いたいことも出てくるが、この絵を見て心揺さぶられたならば、それが答えなのだろう。