数ある国宝の書跡の中で観ていて一番すんなり関心するのが賢愚経である。日本国内に仏教を布教させた聖武天皇が直々に執筆したとされる経典の残巻である。1行12文字と大きく書かれた経は大聖武と呼ばれる。または大和の国の基礎である天平文化を作り上げたことから大和切とも呼ばれている。
教科書に載るような丁寧な字でしっかり書かれている。写経生が書いた画一的でうまい字に近いが、早さより力強さを求めた書き方となっている。この大聖武は観るからにうまくて力強いことから、名筆たちの古筆を集めて本にした手鏡の巻頭を飾る習わしとなっている。
そのため、大聖武は複数に断簡されることが多いので、巻物状態で残っているのは貴重である。白鶴美術館ではたまに展示されることがある。今回のテーマである大きな美術と小さな美術ー東洋工芸 鑑賞と実用ーでは陶芸や金工を中心に展示。景徳鎮の瓶の色絵は金を使用しているものは少し剥がれている部分があったが、五彩や染付は綺麗に残っているので制作当時の雰囲気がそのまま伝わってきた。金工物は細か彫刻を施されたものに鍍金されていたが、経年劣化で起伏が見え難くなっていた。出来た当初だと輝くと細工の丁寧さに感動できただろう。多くの展示物が中国からの渡来品で、白鶴美術館が誇る東洋工芸の収集品のレベルの高さが分かる展示会だった。