国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

鑁阿寺 本堂

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国宝の鑁阿寺本堂は足利学校にほど近い場所にある。足利氏の氏寺で、もともとは館があった場所である。寺の周りは土塁と堀がそのままで、武士の館であった面影が残っている。幕府が開かれた鎌倉が観光地になっているのに比べて、足利は尊氏以降、上洛して政治を行ったため、地元に還元するようのな取り組みがなかったのか観光資源はそれほど多くない。

鑁阿寺は足利家の氏寺として、歴代の足利将軍像を祀るなど、室町幕府の威光を現代に伝えている。本堂は1299年に建てられたが、その後1400年の前半に大規模な改修工事が行われ、現在の形となった。足利家が建立に貢献した京都の大寺院同様に禅宗様の建物である。密教系寺院なのに禅宗様仏堂なのが足利家と禅宗の関係性を物語っている。天龍寺船で大もうけした足利氏が故郷に錦を飾った遺物として、また関東では珍しい禅宗様建物の古い例として国宝となった。

尚書正義 足利学校

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 今年は改元のあった年。新元号の令和は万葉集が典拠となって選ばれたため、珍しい国書の展示が多かった。従来の元号の典拠が漢書からだったため、漢書の国宝書籍の展示を期待していたので、選ばれずに少し残念だった。

しかし、これまでの元号漢書からということで、足利学校が所有する国宝書籍4点中3点が展示。平成までの元号の典拠部分を分かりやすく示して展示していた。

平成と昭和は「尚書正義」、大正と明治は「周易註疏」の国宝書籍が出典元で、その他にも様々な元号の出典元を分かりやすく解説していた。

さて、令和の出典元の万葉集が影響を受けているとされる「文選」も参考出展されていた。同文献にも令和の記述があり、これまでの慣例を忖度した元号となっている。まあ、日本語自体が漢字文化圏にある以上は何らかの影響があったもおかしくない。それを探し当てる学者の知識量がすごい。

四季山水図 (山水長巻) 雪舟筆

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山口県防府にある毛利博物館。戦国大名長州藩を率いた名門・毛利家の邸宅と庭園を公開しつつ、所有していた名品を公開している。博物館と言いつつも、邸宅公開が中心。明治政府をけん引した長州藩ではあるが、政治の中心から距離的にある防府の地では豪華な建物は不要。それなりに手の込んだ細工はされているものの、時の権力にもっとも近い貴族の館と思うと質素である。

秋に行われる国宝展では同館所有の4つの国宝すべてを展示。展示のため邸宅の奥の離れの部分を博物館として使用している。第1室は古い造りの建物の延長線上にあり、引き戸で仕切られている程度。展示物も大名なら持っていそうなものが展示棚に陳列されている。

お目当ては奥の近代的な部屋で、廊下を渡って新たに増設されたであろう建物に国宝たちが待っていた。国宝の刀や書もあるが、お目当ては雪舟の絵巻物。水墨画の山水図で横幅は約16メートルにもおよぶ大作となっている。四季の移ろいを書き綴りながら、大陸の雄大さを表現している。増設された建物では山水長巻を一度に広げることができるように、長い陳列棚を設けており、そのすべてを余すことなく堪能できる。2018年は雲谷等顔の模写と並べて陳列していたのでどちらが雪舟の作品か分からなかった思い出があるが、今年は単独での公開だった。切り立った岩の描き方は見た瞬間になにを表現しているのか分からず混乱を引き起こし、人間心理を突いた場面転換となっている。雪舟らしい独特の表現が和様の絵巻物にある文字の役割を果たしているのかもしれない。

太刀 銘景光・景政 埼玉県立歴史と民俗の博物館

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埼玉県立歴史と民俗の博物館は大宮市の氷川神社などがある公園の北の端にある。時間があれば公園内を散策して行くのがベストだが、最短ルートをとるなら、東武野田線大宮公園駅を利用すると便利だ。

同館は国宝刀2振りを所有していて、普段は模造品を置いている。秋の展示で本物が公開されたので観に行った。まず、普段は模造品を陳列している常設展示場での公開のため、観覧料は300円とお安い。埼玉の歴史と民俗を紹介する博物館だが、一般的な日本の歴史を軸に埼玉トピックスを詰め込んだ展示となっている。

そして、目当ての国宝刀は中世ゾーン。ど真ん中に陳列しているので、裏側まで丸裸で堪能できた。おまけに撮影自由。写真を撮っている人はほとんどいなかったで、少し浮いた人に見られてしまった。

さて、刀には武蔵国秩父郡住が刻まれている。埼玉の旧国名が武蔵で、秩父の武士が播磨に移住した際に神社へ奉納した刀。奉納者と時期が分かる点で歴史的に価値ある刀。坂東武者もふるさとが恋しく、時代を経て刀だけでもふるさとで過ごせて本望かもしれない。

黒韋威胴丸 兜大袖付 厳島神社

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厳島神社では毎年秋に行われる宝物名品展で本物の国宝を展示する。別棟で常設の宝物館があるが、こちらには国宝の複製が展示されているのみで、本物はこの秋の名品展のみ。春にも開催して欲しいのだが…。

令和への改元の祝い年であるため、国宝の厳島神社の舞台では舞が奉納されていた。滅多に観られない舞を堪能できた。ただ、有名な大鳥居は大修理の最中で、防音防粉のため覆われていたので、少し残念だった。

さて、2019年は平家納経4巻と清盛などが書いた紺紙金字法華経8巻、そして黒韋威胴丸兜大袖付が展示された。厳島神社の入り口と出口の中間ぐらいにある名品展会場はすべて柵で覆われている収蔵庫の特別室で開催している。目立たない位置にあるだけでなく、ほとんどPRらしいことはしておらず、写真の案内板が入口にあるだけ。観光名所で秋の紅葉シーズンなので多くの人が往来があるがひと目看板を見て素通りしている人がほとんど。目当ての人以外は近寄らせないオーラがでてきるようだ。

さて、展示スペースが狭いので、展示点数が10件程度で少ない。なので国宝と重文クラスを少し展示するだけなので、コスパは非常に悪い。しかし、厳島神社の宝物が必ず観ることが出来る貴重な機会なのでマニアはこぞって訪問している。今年は黒韋威胴丸が登場したことで、国宝ファンは立ち寄ったことだろう。福岡市博物館での侍展で観た小桜韋黄返威鎧のようなデザイン性は乏しいが、黒でシックな造りは武士の豪気が感じられる仕上がりで、着用すると力がみなぎりそうだ。ちょうど岩国でも国宝刀2点が公開中なので、武士の魂を観る良い機会なので合せての訪問をおすすめ。

聖徳太子絵伝 秦致貞筆

正倉院展に合わせて法隆寺宝物館では聖徳太子絵伝を展示していた。絵伝は壁面ぐらいの大きさに各場面を混ぜ込んで描いている。ちょうど日本の絵巻物の時間軸を平面に展開したような形である。

10面で聖徳太子の人生すべてを描いているので、生青壮老死のハイライトを1面毎に描いている。国宝で近い描き方は六道絵のように、1面で伝えたい場面をいっぱい書いて、それを枚数を重ねることで場面転換(空間転移や時間転換)に仕上げている。

聖徳太子信仰の名品ではあるものの、傷みがあり美術的にはもう一つに思えた。聖武天皇以前の物はそれほど残っておらず、聖徳太子実在論まで出てきている昨今。摂政である厩戸皇子の活躍をフィクションも織り交ぜて描かれた初期の作品であることは貴重である。

今回は正倉院展を記念してか、8kで撮影したものをデジタル的に鑑賞できるサービスがあった。本物ではじっくり観ることに限界があるので、複製やデジタル保存など鑑賞の仕方が増える取り組みは大賛成。文化財の保護の観点でも本物を超える贋物ならいろいろな企画展示ができそうだ。

【正倉院の世界】 法隆寺献物帳 東博

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毎年、奈良国立博物館で行われている人気コンテンツ「正倉院展」が即位のお祝いもあって東京でも同時期に開催された。

正倉院に保管されている宝物は聖武天皇の遺品なので1300年前のものだ。そのほとんどが美しさを失うことなく保管され続けた奇跡を毎年、奈良では展示物を変えて陳列している。定期的に公開されてはいるが、保管状況の確認などや虫干しを兼ねたもので、展示や学術調査がメインではない。そのため、年によって展示物が変わり、毎年見に行かないとお目当ての品にめぐる合わないため、行き出すと恒例になってします。

さて、正倉院の品々は御物に当たるため、基本的に国宝の指定を受けることはない。例外として正倉院の建物自体は世界遺産指定の関係で国宝指定を受けてはいるが、あくまでも例外。なので、見て回る対象外なのだが、同展示会では東博所有の法隆寺献納宝物が展示されていた。

法隆寺明治維新後の廃仏毀釈による荒れ果てた寺院を再建するに当たり寺宝を献上してた。戦後になり、それらは東博所有になり、法隆寺宝物館を建立するまでにいたった。お寺なので法要などで使用する様々な道具や奉納された仏像や経典などがあった。聖徳太子信仰の中心的寺院であることから、貴重なものが多く国宝・重文指定物がごろごろある。その献納した資材帳も国宝となっている。正倉院からそれ程多くの展示物が来東しなかったことから法隆寺との合わせ技となったが、それぞれ歴史を感じる展示となっている。

国宝拝観者たちの夢、千件越えをいつの間にか達成した。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標が完結した。 次の1100件は果てしなく遠いので、1050件を一区切りにしよう。