日本で描かれた大陸風の山水図の多くは写生ではなく創造して描かれている。当たり前だが、大陸へ渡ること自体が非常に困難な時代に、画業のために渡航するのはよほどのパトロンがいなければできない。雪舟が大陸へ渡ったことを誇らしく賛に書いたのものそのためである。
雪舟が凄いのは一般的な日本の山水画家が大陸風の山水画を描くことがほとんどだが、現実の日本にある風景を描くため現地へ行って描いた点にある。日本三景のひとつ、天橋立の絶景を描いた雪舟の作品は下絵とも言われているが、その描写力は500年の時を超えて衛星写真が気軽に見ることができる環境下でも色あせることはない。天橋立付近を上から見た図を描いているが、高台やドローンもなく本人が鳥になったかの如く、正確な描きぶりである。観察力と想像力、作家性を遺憾なく発揮した作品である。この図を屏風に仕上げていたら、さぞ壮大なものができただろう。雪舟のことだから、手近な宮島も描いた可能性があり、家にいながら旅行気分が味わうよいツールとなったことだろう。