国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

慧可断臂図 雪舟筆

 国宝展で雪舟国宝作品6点一気見をした。そして、春に「名作誕生 つながる日本美術」で天橋立図、秋には毛利博物館で四季山水図が展示され、雪舟の名作が堪能できた。

今回は年末年始の京博企画展にて慧可断臂図が出品されていた。墨彩にも関わらず切断した手首にうっすらと朱が乗るインパクトのある構造で、見る者をはっとさせる。顔部分は濃い書き込みがあるのに、衣服は薄墨で太く素早く書かれて、強弱がはっきりして人物の見てほしい部分が分かりやすい。全体の風景は岩場で、雪舟独特のあり得ない角度で引かれた線が洞窟に見えてくるのが作家の力なのだろう。展示会場に狩野元信の作品もあったが、インパクトは雪舟の作品が一番。もしこの時代に西洋へ雪舟作が言っていたならば、北斎以上のインパクトを与えたのは間違いないだろう。

催馬楽譜

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国宝を見始めて一番の問題はいつ公開されるか。建物のように行けば何時で見ることができるものや、展示室などで常設展示されているものは空いた時間で行ける。また、宗教上の理由や文化財保護法の関係で展示日数が限られていたり、季節限定や期間限定などがあるが、それらはタイミングが合えば見ることが出来る。しかし、いつ公開されるか分からないものは大変だ。公開が数年前からないものもはまだましで、十年近く公開されていないものもある。そのひとつとなっていた催馬楽譜が10年ぶりに公開されたと聞き、佐賀へ行った。

催馬楽譜は平安時代の楽譜帳で、佐賀県唯一の国宝である。はやり歌を奏でるため、演奏者のために拍子と歌のリズムが書かれているものだ。佐賀藩藩主の鍋島家に代々伝わってきたもので、日本最古の写本だそうだ。

現代の楽譜は旋律などを記号と位置の2次元で表現しているが、催馬楽譜は直線的な文字と注釈で書かれている。雅楽の単調な感じはこの楽譜から表現されていると思うと、西洋的な重層な演奏が可能なのも楽譜に寄るところかもしれない。世界の楽譜の歴史がその国の音楽性を表すと思うと、国宝に相応しい。

なお、この展示の時期が維新150年祭りの真っ最中だったが、官制のイベントはそこそこの盛り上がりだった。一方で同時期に放送されていたテレビアニメのゾンビランドサガがかなり盛り上がっていたことが印象的だった。

翰苑 巻第丗 太宰府天満宮

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応天の門

天満宮は全国各地にあり、国宝もそれぞれの地にある。有名なのは建物としての北野天満宮。学問の神様の総本山は、左遷されてかの地で亡くなった菅原道真を祀るために造られた。国宝・北野天神縁起はその物語を絵巻物にして伝承を伝えるもので、京都文化博物館で開催される展示会で2月23日から4月13日までの期間中に展示予定だ。

さて、その左遷されたかの地が大宰府である。いまでも北野天満宮からだと電車で4時間以上かかる。なので、当時は本当に遠方地。しかし、国宝の世界では大陸との窓口として重要な場所で、空海が大陸から戻ってきて数年この地に滞在(足止め?)していたり、栄西誓願寺盂蘭盆縁起を起草したりするなど、国宝を核に研究すると面白い地域である。そして、菅原道真遣唐使渡航候補になり、その後廃止を推進したことから運命として大宰府に導かれたのだろう。来るべくして来た大宰府でその生涯を終えた。

その道真をテーマにした漫画「応天の門」を題材に、太宰府天満宮で企画展を実施。その中で、翰苑 巻第丗が出品されている。普段もレプリカが展示されているが、今回は期間限定で本物が登場。有名な金印の部分が公開されている。翰苑は現代の日本人にも読める楷書の漢字できれいに書かれているので非常に親しみやすい。あさきゆめみしのヒットした例があるので、歴史漫画の金字塔になってほしい。

 

薬師如来坐像 獅子窟寺

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年始の1月1日から3日まで公開している国宝としては薬師寺の吉祥天像が有名である。そして、同時期に自由に見ることができる国宝として獅子窟寺の薬師如来坐像がある。予約を入れれば誰でも見ることができるが、せっかく開放しているのだから、見に行くほかに手はないと、元日に出向く。

ブログなどで見る獅子窟寺の感想が、急こう配のことがとにかく多い。寺へ行くまでが大変なことが薬師如来との対面以上に心に(体にも?)残るのだろう。地図で見る限り駅から1キロちょいというところだが、前半は軽い坂道で半分を過ぎたあたりから、断崖のような坂が目の前に現れる。山を切り開いて歩道を作ったようで、400メートルほど登るという急こう配。まさに修験道が目指した寺である。

登り着る手前には護摩堂跡があり、頂上に本堂が見えてくる。正月なので地元の方がお茶の接待をしたり、本堂のお賽銭箱の横には参拝祈念品?の入浴剤が置いてあったり、正月気分を少しでも味わえる独自の取り組みをしていた。

さて、メインイベントの国宝仏について、見る前に気になる点があった。「本日は自由に拝観できる」旨の立て看板が境内の要所においてある。しかし、ここまで来る人はほとんど知っているので、むしろ駅前や参拝道入り口などに置いておくべきなのだろう。なので、参拝者は十数人。ほぼ家族連れだったが、中にはこの日のことを知って国宝仏を目当てに来ている人もいた。なぜ、国宝仏目当てかと分かるかというと、国宝の薬師如来坐像を収めている収蔵庫前で、見終わった瞬間に国宝に興味のない方が坂道の大変さを口々に言っていたためだ。(片割れはじっと耐えていた)

薬師如来坐像は平安初期の一木造りで、定朝作のようなふくよか感がまだなく、がっしりとした体格である。光背の仏像も規則正しく作られており、如来坐像の基本形といったところだ。ここから、いろいろな技法を用いて仏像彫刻の飛躍が始まると思うと、非常に貴重なものである。

【筑前左文字の名刀】 短刀〈銘筑州住行弘/観応元年八月日〉 土浦市立博物館

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2018年後半は怒涛の刀剣展示会だった。その最後を飾るのがふくやま美術館の筑前左文字の名刀展である。寄託されている江雪と太閤が期間中常設で展示されるのに加えて、後半からは土浦市立博物館の住行弘が来広。左文字刀が一堂に会する展示会となった。

短刀が多い左文字は女性的な魅力を感じる造りで、実用的なものが多かった京の刀に比べると、その違いだけでも楽しめる。

住行弘はかなり深い刃紋が印象的で、波打つ様は荒々し博多女の気性をうまく表現したようだった。茨城までなかなか行くことができないので、遠方での展示会出品は大歓迎。東京だけで企画するのではなく、多くの展示会が巡回してほしい。

なお、同展は正月明け12日から刀剣博物館でも開催される。

 

入道右大臣集 前田育徳会

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石川県立美術館の2階には前田育徳会保有の美術品を展示するスペースがある。江戸時代は加賀藩であった石川県は前田家が支配していた。徳川政権下では外様大名である前田家は武の強化は難しい立場だったことから、芸術振興に力を注いでいた。それが今日まで受け継がれていて、それらを定期的に展示するスペースが県立美術館の常設展示に繋がっている。

施設は兼六園の隣にあり、観光ついでにぶらっと立ち寄るにはもってこいの場所にある。しかし、なんども通うと観光する場所も少なくなり、お目当てが同美術館だけになってしまう。それぐらい展示するものが豊富にある。

今回は育徳会保有の入道右大臣集が展示されていた。いろいろな歌を集めたもので、平安時代の藤原家の優雅さを今に伝えている。こういった歌集は展示している場面が有名な箇所だけで他の場面も見られるような展示方法はないものだろうか。

このほか、国宝の野々村仁清作・色絵雉香炉が常設で、しかも撮影自由で鎮座している。また、同時期には剣・銘吉光(白山比咩神社)も展示されていた。両刃の剣は刀とは違った味わいがあり、国宝指定にふさわしい美しさであった。

刀剣博物館 延吉

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2018年に新築・移転した刀剣博物館の国宝刀剣を見に行った。前期に行ったため、国行(来)は京都に遠征中。保有国宝3件すべてを一度に見ることができなかった。

コンクリート打ちっぱなし風ののっぺりとした建物は、両国の国技館や安田庭園など通りに和風なものが並ぶ中では異彩である。どちらかと言えば江戸東京博物館に寄せた作りで少し残念だった。中も今風のおしゃれな感じ。オフィスビルと言っても疑う人はいないだろう。

さて、展示は3階部分でバスケットコートを少し広くいた程度のスペースに刀剣とそれに関わるものを展示している。借り物や付属品は撮影NGだが、同博物館所有の刀剣に関しては写真OKと太っ腹。だが、刀剣はガラス越しでライティングの関係で撮影が難しいが、思い出として残すには十分だ。

さて、刀剣ブームの昨今。少なからず刀剣女子が来ており、お目当ての刀の前で撮影大会となっていた。国宝の延吉・国行は刀剣女子の関心がいなのでじっくり見れた。伝来がはっきりしていることが刀剣類の国宝指定には重要なので刀の美術的な価値の違いが見えずらい。なので、横並びの刀を見ても国宝と重文、指定なしなどの違いが微妙。シャッフルされると分からない。

延吉については後水尾天皇の御料品ということもあり、美術品として美しさを感じた。少し太めの刀身にストレートな刃紋が印象的で、大和様と古備前様を合せた姿がなんとも言えない良さとなっている。付属の鞘も豪華な金梨子地で高貴さを演出するにふさわしい拵えとなっている。

新築した建物の割には展示スペースが限られている。都内の一等地なのだがら仕方ないが、おしゃれな空間演出を展示に活用してもよかったではと思う。また、以前見た林原美術館の刀展や備前長船刀博物館がよかっただけに、王道を歩む刀剣博物館のこれからの企画展示に期待したい。

国宝拝観者たちの夢、千件越えをいつの間にか達成した。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標が完結した。 次の1100件は果てしなく遠いので、1050件を一区切りにしよう。