聖林寺の十一面観音立像は2021年の夏に東博、2022年冬に奈良博で特別公開された。奈良時代彫刻の傑作を一目見ようと多くの人が来ていた。巡回展は1か所しか行かないことが多い中で、東京と奈良の両方を見に行ったぐらいお気に入りの仏像である。奈良博では保護するためのケースがない無垢な状態を見ることができ、非常に満足した記憶がある。
東博と奈良博の巡回の旅が企画できた大きな要因は聖林寺の観音堂の全面建て替え工事が実施されていたからだ。以前、陳列されていた観音堂は昔ながらの建物内(まだホームページはその頃の写真)に安置されていた。そのため文化財保護の観点から作り変えは必須だったため、作業中の勧請巡業と相成った。巡回を終えた十一面観音立像が納まる新しくなった終の棲家を見に行くにした。
聖林寺は近鉄・桜井駅から談山神社が終点のバスに乗る。せっかくなので談山神社を参拝した。国宝好き的には奈良博へ寄託している粟原寺三重塔伏鉢を思い出すが、もちろん現地にはない。一通り見た後、目的地の聖林寺へ行く。
バス停から少し上り勾配を歩いて聖林寺へ。それほど大きくない寺だが、見晴らしは最高のロケーションであった。本尊は子安延命地蔵で、深大寺の元三大師像を思い起こす大きさ石仏となっている。本堂には十一面観音立像はおらず、少し離れた建物に安置されている。観音堂へ渡る手前の本堂内に写真の模型があった。十一面観音立像が元々あった三輪山の神宮寺の一つである大御輪寺の本尊の様子を再現していた。神仏分離によって聖林寺へお渡りになる以前の姿の再現していた。東博や奈良博では分かれて保存されている仏像たちが再会する構図が採られており、旧交を温めたような展示だったことを思い出した。
本堂を後に、山肌に伸びる階段を上がっていくと新しく作られた観音堂が現れてくる。光の入らない構造物で、以前の古い建物に比べると重厚感がある。扉がエントランスとお堂の2段階に分かれていて、堂内へ入るスライドドアは非常に重たかった。入ってすぐはたまり場あり、まだ観音様は見えないが、右手に賽銭箱と鎮座していそうな空間がある。その空間の前に行くと正面に十一面観音立像全体が現れる。ガラスケースに入ったお姿ではあるが透明度が高いため全く気にならない。十一面観音立像が安置されている部屋へ入ることは可能で、ガラスケースはあるものの近くで見ることができた。安置することを前提に作られた建物だけあってとても見やすい。ただ、観音様が蓮に乗って立っており、非常に背の高い仏像となっているので、周りに高台があればもっとじっくり見られたのにと思った。独り占めの時間が十数分あり、最高のひと時を過ごすことができた。非常に満足のいく観音堂であった。