杏雨書屋の国宝・重要文化財展示の中で、一番見ごたえのあったのものは説文解字木部残巻であった。巻物状のほとんどを開いて見せていた。この国宝は2019年冬に開催された顔真卿-王羲之を超えた名筆で展示されているのを見たことがある。その時は一部の公開であったが、改めて全体を見ると今の字典の原型であることが分かる。
説文解字とは漢字字典のことで、木にまつわる漢字の書体や意味を解説している。原本はすでに失われているが、後漢時代、西暦100年頃に許慎という学者が作ったものを10世紀ごろに書き写した残巻が国宝となっている。しかも1951年に始まった戦後の国宝指定第1回で国宝指定を受けた迷うことなきお宝である。
この書が印象に残る原因は最初に紹介する漢字の書体が懸針体と独特だからである。すごくか細くくねくねした筆記であるため、象形文字的で木の根っこを想像させる出来栄えとなっている。説明文の漢字はしっかりと書かれているので、わざとであることは間違いない。今の漢字辞書ではフォントやサイズを変えて見やすくする工夫がされているが、かなり読みにくくするのはいかがなものかと思う。もしかしたら漢字の原点で書いているのかもしれないが、インパクトはかなりある。古代の青銅器とのコラボ展示ができればおもしろい組み合わせとなりそうだ。