コロナも落ち着いてきたが、今回の展示会は完全予約制だった。念には念を入れた対応と思っていたが、別の次元で予約制だったことが入ってみて思い知らされた。それは刀剣女子たちの過熱した人気に対応するためだった。3年間のコロナ禍で予約制にすっかり慣れていたため、この角度で必要だったことを失念していた。来場者の9割5分以上が刀剣女子たちだった。人だかりは出来ないまでも、ショーケース前には常に人が観覧している状況だった。
さて、相模国の刀工・正宗の作品。短刀で包丁に似ていることから包丁正宗と呼ばれている。この名前で呼ばれている短刀は3口あり、そのすべてが国宝となっている。
尾州徳川家伝来のものが、徳川美術館所蔵。日向藩内藤家所蔵が大阪の法人錦秀会蔵となっている。
永青文庫のものは僧侶の安国寺恵瓊が所持していた。毛利家に仕えた僧侶で外交に暗躍、羽柴秀吉の中国攻めに際して、交渉役となり和議を結ぶ助言をした。(秀吉側は本能寺の変を聞きつけて、和議後に中国大返しで畿内に戻った。)関ケ原の合戦では西軍につき、石田三成とともに斬首された。この安国寺を捕らえたのが奥平信昌で、身柄と共に包丁正宗を家康に引き渡し、褒美として信昌が受け取った。信昌から子の松平忠明に譲られて、忠明が武州忍藩へ転封して同藩に伝わった。明治に入り、山下汽船の山下亀三郎が所持。伊東巳代治に贈った後に、伊東家から昭和11年7月に14700円で細川護立が購入した。
徳川美術館が所有する包丁正宗は薄くてフォルムも美しいため、お気に入りの作品である。永青文庫のものはそれに比べて、でっぷりと丸みを帯びた形状で、包丁という形容にはこちらの方がふさわしい。