国宝を観る

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国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

源氏物語絵巻 徳川美術館

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国宝の源氏物語絵巻が巻物となって蘇った。徳川美術館所蔵の国宝・源氏物語絵巻は断簡されて木枠にはめられて保管されていた。当時の保管方法としてはベストな方法だったかもしれないが、時代を経て傷みが目立つようになったことから修繕することとなり、その機会に元の巻物状態へ戻す作業を行った。それが完了したことを記念したのが2021年秋の展示会である。

同展示会では源氏物語絵巻を観賞する前に、徳川家が収集した唐物美術の企画展が開催されていた。こちらも源氏物語絵巻以上の逸品が陳列されていた。とくに東山御物と呼ばれる足利家が蒐集した美術品は名品であった。玉澗筆の瀟湘八景・遠浦帰帆図は水墨画で薄墨により遠方感を出し、果てなる奥行きを想像させる。特別出展の伝牧谿作の瀟湘八景・洞庭秋月図は畠山記念館で観た煙寺晩鐘図や根津美術館の漁村夕照図と連作だと思われる。靄のかかったような薄っすらとした風景がどの作品にも観られるのが共通だ。そこに、なにも描かれていない部分に船を浮かべることで、まるで静かな湖面をイメージさせる。ないものをあるように見せ、遠近法でなく墨の薄さだけで奥行きを見せる技術力は牧谿作と伝わるのもうなづける。国宝の指定替えがあってもおかしくない作品だ。

家康所有の龍虎図はかなり大きく、城の大広間などに掛けられても迫力が伝わる作品。龍が陳容、虎が牧谿と伝えられているが、有名人の作品として箔をつけた言い伝えだろう。それがなくても立派なもので、もっと広い場所で観たい。同企画展では江戸時代の美術品目録である「君台観左右帳記」もいっしょに展示してあり、当時から宋元時代のものは人気があったことが書によっても理解できた。

さて、部屋を移り源氏物語絵巻の展示スペースへ行く。展示の半分は複製・再現したもので、現代美術家が当時の艶やかな姿を蘇らせた。五島美術館では国宝と再現したものを比較しやすいように近い場所で展示していたが、こちらではまずは複製品を見て、後半に怒涛の国宝巻物ラッシュという展示となっていた。

国宝の絵巻物は巻頭から文章、絵画という流れとなっている。出だしは金箔をふんだんに散りばめたデザインだが、豪華だがシンプルにまとめていた。そこから色紙にストーリーを書き、絵画へとつなげていた。断簡されたとはいえ、もともと継ぎ目に合わせて裁断しているので、元に戻すのは無理難題ではない。むしろ、茶室などで掲げるために売買するため断簡されていないため、バラバラになっていないことから復元が可能となっていた。尾張・徳川家がすべてを大切に受け継いだ証拠である。

さて、個人的に断簡状態で観るか、巻物で観るかどちらがよいかというと、断簡の方である。なぜなら、巻物状にすると見学の列の動きが非常に悪くなる。観たい場面が多くの人がいっしょのため、滞留する場所が決まって来る。そこがボトルネックとなって詰まってしまってスムーズに見ることができないためだ。巻物を観るには鳥獣戯画の展示会のように動く歩道の導入にかぎる。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。