国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

【京博名品展】後嵯峨天皇宸翰消息

東博での仁和寺展で見たものと再開。天皇の直筆である宸翰で、それを手紙として出したものが消息。天皇から直接お手紙をもらったら、末代までの家宝にするだろう。にもかかわらず、ほとんど残っていない。まず、天皇自身が書くことが珍しい。明治以降の天皇の直筆も叙勲などの公式文章への署名以外はほとんど見かけない。そして、室町以前の天皇の直筆は応仁の乱の戦火で焼けてしまったことも見かけない一因だ。文字を書くこと自体が減ってきた世の中ではあるが、デジタル的に書を残すことができなければ経典の代筆のようにとてもうまいが個性のない字のみになりかねない。なにかの機会に直筆の手紙を書けば同書のように後世に残るかもしれない。

【京博名品展】後鳥羽天皇宸翰御手印置文

手形付の天皇の書。

天皇は日々多くの付き人を従えて生活しているはず。その人々が見ている中で、後鳥羽天皇が両手に朱肉をつけて、書に押し付ける風景は権力と程遠い。玉璽を押すの違い、自ら望まない限り完成しない御手印。しかも両手。よほどの思いが詰まった文となる。

その思いとは承久の乱に敗れ、隠岐へと流罪となった後鳥羽天皇。その死の13日前に書き残された宸翰だ。ところどころに震えて弱弱しくなった文字もあり、都に思いを届ける遺言を気力で書き綴った。両手での印が仕上げとなり、近臣の水無瀬親成が受け取った。そして、現代まで大切に保管され続けたということは思いは届いたのだろう。

 

【京博名品展】法華経巻第七(運慶願経) 真正極楽寺

書や仏教の展示で経典が陳列されていることがよくある。そして、ご多分に漏れず意味も分からず、読み砕くこともできないので、ほとんどの場合は文字を眺めて終わる。その時の感想は決まって「うまい文字を書くものだな」。で、その文字は専門の職人がいることと、その方々が書いているということを数年前に知った。完璧に書いたらボーナスが支給され、失敗すると罰則金を取られるそうで、パソコンの文字入力でも間違いが多いので到底勤まらない職業である。

さて、職人は職人でもこちらのお経は仏師が奉納したもの。国宝彫刻の第一人者である運慶が奉納した日時が分かる貴重な資料で、彫刻にも自分の名前を彫るぐらい自己顕示欲が強いからこそ現代まで残るものが造れる。

【京都名品展】古今和歌集(曼珠院本) 

カラフルな色紙に書かれた古今和歌集。こちらも藤原行成筆の可能性があるようだが、伝承などに残っていないので作者不明。

京都の北東にある曼珠院は比叡山と御所の間にある。御所からはちょうど鬼門の位置にあり、近くには修学院離宮赤山禅院などがある。国宝は古今和歌集のほかに、不動明王像(黄不動)を所有。補修の時に発見されたお腹辺りに小さな隠し不動明王像の痕跡が見つかったこともあり、国宝展では目玉の展示物のひとつであった。

この古今和歌集はほとんど仮名で書かれており、その流れるような書体は雨粒が滴り落ちるようで、文字自身に速さを感じる。筆さばきのみごとさを堪能できる作品である。

一字蓮台法華経 龍興寺

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奈良博でも夏休みに合せて企画展を実施している。どうぶがモデルの美術品を集めたいのりの世界のどうぶつえんは子供たちも多く来ていた。ただ国宝が地獄草紙や地獄草紙、辟邪絵とトラウマになりそうな絵があり、囲ってみたい人だけに見せる配慮をしていた。

さて、国宝で一番目についたのは龍興寺の一字蓮台法華経。一字に一つの蓮の絵が描かれていて、経文6万9384字もの蓮の中に字が浮き出る気の遠くなる作業で完成させた代物。福島県にある国宝物3つの中のひとつ。観ているだけでいち早い震災復興を祈念せずにはいられない。

 

【京博名品展】書巻(本能寺切) 藤原行成筆

三蹟の一人、藤原行成の書で国宝は3点。東博の白楽天詩巻と正木美術館の後嵯峨院本の白氏詩巻、それと今回出展の本能寺所有の書巻である。

最初の2つは平安貴族に好まれた白居易の詩文を独自の書風で書いたもの。それに対して書巻は雲母刷のある唐紙に菅原道真小野篁紀長谷雄たち日本人の文書を漢文で記したもの。鎌倉時代に入ってくる禅宗の生真面目で堅苦しい文字とは対照的に、やわらかでリズミカルな文字で、平安中期の時代にぴったりの文字である。

【京都名品展】灌頂歴名 空海筆

メモ帳などに執る覚書。清書する前の走り書きが国宝になる。それが書の名人である空海のものだと当然だろう。

灌頂を受けた人のメモで、かなりの走り書き。書の名人で様々な書体を使い分けることができる空海。だが、素の空海が書いた文字なので人間性が出ている書となる。

さて、平安時代に突如としてブームとなった密教。灌頂を受けることで指導者となることができるとあって、我先に受講した。その初期メンバーが分かる資料。おそらく清書したものは寺院の丸秘文書として大本山で大切に保管されているので、一般の目には留まらない。なので、同書は歴史のターニングポイントを語る貴重なものである。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。