国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

海部氏系図

家系図が国宝。細工を凝らした紙に書かれた達筆の書でもなかなか国宝にはならないにも関わらず。系統が書かれたものが国宝になっているのはぜひ見なければと丹後郷土資料館へ足を運んだ。

同館で数年に1度の割合で公開される海部氏系図(個人蔵)は平安時代のもので、真ん中に直系の系譜を書いた独特のものである。古さはもちろんだが、卑弥呼に関するかもしれない情報が掛かれており、太古のロマンを感じる系図となっている。

そもそも日本海側は大陸に近く、古代は表日本と言っても過言ではない貿易の窓口であったと想像される。瀬戸内を通じて畿内へ物資を運んでいたもの間違いないが、危険を度外視すると大陸から日本海側へ物資を運ぶ方が効率的であった。なので、丹波(京都や兵庫の北部)が発展していてもおかしくはない。また、丹は水銀を含む鉱物を表す言葉で、畿内で取れた丹を輸出する拠点となっていたら莫大な利益がもたらされていたかもしれない。そんな想像を掻き立てる系図だった。

天橋立という観光地にありながら、若干遠い(歩いて20分ぐらい)の丹後郷土資料館にはあまり人が来ていなかった。もう少し交通の便をよかったら見に来る人多くなるのに残念。

後宇多天皇宸翰 御手印遺告

大覚寺では改元を祝して、保有の国宝2点を公開。

春秋の特別公開時には力の入った宝物公開があるが、今回は気合入りまくりの展示だった。後宇多天皇の御手印と弘法大師伝(ともに国宝)に加えて、60年に1度公開される嵯峨天皇宸翰の般若経の複製も披露されていた。

御手印は相撲取りの色紙に押すように手形を押している。なので、後宇多天皇がどれくらいの手の大きさかが一目で分かる。四天王寺後醍醐天皇御朱印もそうだが、それほど大きな手ではなく、現代人だったら小さい部類に入る。

さて、令和になって初め見た国宝だったが、その印象よりも勅使門と宸殿が昨年9月の台風の影響で工事中であった。1200年の歴史のある寺院でも台風の影響は免れず、信心も自然の力には適わないのだと感じた。

一遍聖絵

f:id:kokuhou:20190504223515j:plain企画展では絵巻物の一部しか展示されないことが多い。その点、特別展でしかも展示される絵巻物の冠展示はすべてを展示してくれる。ただ前期後期で巻替えが行われることが多いが、気の利いた展示場は展示されていない場面の複製を展示してくれており、絵巻物の全体を一度に観ることが出来る。

一遍上人の絵巻物は時宗の各地での普及場面が描かれていて、旅物の雰囲気をまとった宗教絵巻となっている。基本的には各地で集団で踊る風景が描かれる。全国で集団で踊ってみた的なノリが描かれていて、それまでの仏教が貴族のものであったことを考えると庶民にまで普及する切っ掛けとなった絵巻物である。旅物は結構人気があり、水墨画でも題材となったものをたまに見る。しかし、庶民には見る機会がないので浮世絵の普及する以前では貴重な檀家たちが楽しめる旅物絵であったかもしれない。

時宗浄土教へつながる宗派ではあるがなじみがあまりない。ダンス系宗派では躍る楽しみが分かる人でないと難しいのか、その後の浄土系の念仏を唱えるだけの簡易な宗派が勢力を伸ばした。そういう意味でも来場者がそれ程多くなかった。

【春日大社】黒韋威矢筈札胴丸

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式年遷宮が記憶に新しい春日大社。その時に造られたのが国宝殿で、春日大社の至宝を少しずつ展示している。

そんな春日大社は甲冑類の国宝保有数はナンバーワン。4つの甲冑と1つの籠手が指定を受けている。ちなみに甲冑4点が国宝指定を受けているのが厳島神社大山祇神社で、厳島は平家、大山は源氏が瀬戸内海運の安全のために奉納したのだろう。

春日大社は武運の願掛けで奉納していて、籠手は源義経が奉納したと言われている。そして、黒韋威矢筈札胴丸楠木正成が奉納したとされるもの。春日大社の国宝甲冑には装飾が煌びやかなものもあり、それらは奉納のために造らせたと思われる。対して黒韋威矢筈札胴丸は装飾性は少ないが、部分部分で豪華さを感じる作りとなっている。鎌倉武士の合理性を備えた黒い甲冑はいつ戦で着てもおかしくない輝きをしていた。

【明恵展】絹本著色仏眼仏母像

都心の高層ビル内に造られた美術館は仕事帰りなど気軽に行きやすいメリットがある。一方で、展示スペースが大きく取れないデメリットがある。その点で六本木のサントリーミュージアムは2階分のスペースを確保して広々とした展示が出来る。その前例に倣わず平面的なワンフロアのみで、コレクターの人となりの説明と茶室を再現した中之島の香雪美術館は常連になればなるほどそのスペースがもったいなく思える。ともに常設展はなく、特別企画展で勝負しているので、常設部分がなくても(常設部分は常時無料開放でも)問題ないと思う。

さて、高層ビルの限られた空間は高さも制限されていている。古い博物館なら大きな作品を陳列するため高い天井を設けている。ところが、香雪美術館の天井はオフィスより高くはなっているが3メートルを超すものの陳列は難しい。そんな展示条件が功を奏したのが絹本著色仏眼仏母だろう。高さが2メートルぐらいの仏画で、ショーケースいっぱいに陳列されていて迫力十分。頭の部分に獅子冠が掛かれており、視線が自然と見上げてしまう。蓮に座った仏眼仏母像が人の等身大に近い大きさとなっており、明恵が亡くなった母親の変りとして慕ったのもうなずける出来である。高山寺で実際に掲げられた場面を見て観たくなる作品だ。

 

【明恵】鳥獣戯画

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国宝の絵巻物で現代人にも親近感が涌く作品が鳥獣戯画だ。ウサギやカエルなどが滑稽な動きで描かれている作品で漫画の原型になったと言われる。

その鳥獣戯画は甲乙丙丁の4巻からなり、引用されることが多いのが甲乙の巻である。中之島の香雪美術館で開催されている明恵展では前期と後期で2巻ずつの展示をしている。見に行ったのは後期は丙丁の巻物。甲乙の躍動感とユーモア感ある擬人化絵の代表に比べて、丙丁に架かれているものの印象が薄い。それもそのはずで、人々が鳥獣同様に遊びまわる様子が描かれている。当時の市井での遊びが分かる貴重な絵巻物であるので国宝級であるのは間違いない。しかし、動物が遊ぶ姿に比べるとインパクトは薄れる。見るのならば甲乙つけ難い方になる。

【藤田美】仏功徳蒔絵経箱

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藤田美術館展では工芸品に描かれている菩薩やゆるキャラが宣伝ポスターなどに使われている。この絵が描かれているのが仏功徳蒔絵経箱である。

経典を入れる箱は数あれど、箱単独で国宝指定を受けているのは4点(経典の付属として指定はもっとある)。その中でも藤田美術館のものはかなりゆるい。箱には空中浮遊する菩薩とその下界では動物たちが描かれている。当時の蒔絵技術の限界だったのかリアル路線からは少し外れている。木々や風景、仏は緻密に細工されている一方で、動物はシルエットで小さく描かれている。それぞれ躍動感はあるのだが、如何せん小さくアイコン的なデザインなのでかわいらしい。涅槃図で悲しむ動物が愛らしいのと同じく、経箱の限られた空間で菩薩への動物たちの愛情が観ていて癒しになる。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。