螺鈿細工の超絶技法を用いているのが時雨螺鈿鞍。蒔絵の場合は時が経つにつれて摩耗などで色が褪せてくる。ところが螺鈿は貝そのものの光沢のため、物理的な破壊がない限り光沢を生み続ける。反面、光り輝く貝殻を加工するのだから、細かくなるにつれて難しくなる。それなのに時雨を表現しているのだから、高度な技術なくしてはできない。
黒々とした漆にそこはかとない時雨の螺鈿。周りが千代姫の嫁入り道具やら琉球国王関連など超派手なものが並ぶ中で、一瞬、見逃しそうになる。おそらく、他の展示会では中心になる逸品。格や技術は申し分ない、押しも押されもしない名品だ。それが、国宝が集まる展示会だけに、存在が控えめになってしまう。