関西では馴染みの薄い畠山記念館。京博では畠山記念館の名品と題して展示会が開催されている。記念館はポンプや環境関連の機械を扱っている荏原製作所の創業者である畠山一清が集めた品々を展示している施設で、茶道具の名品が集まっていることで知られている。
畠山一清は金沢の出身で、能登国主畠山氏の後裔だそうだが、むしろ東大機械工学を卒業したエリート技術者という側面の方がしっくりくる。技術者としてうずまきポンプを発明して、数十にも及ぶ製品を開発し、一大企業に育て上げた。関東大震災後に茶に目覚め、即翁と称して当代の茶人たちと交流を深めた。鈍翁(益田孝)、三渓(原富太郎)など次々と他界する中、戦後も耳庵(松永安左エ門)などともに茶の湯に関する品々の蒐集をリードしてきた。それらを保管しているのが畠山記念館である。
畠山記念館は東京の超高級住宅街の白金台にある。もともとは薩摩・島津藩の別邸だった場所に、明治維新後に参議・外務卿となった寺島宗則の屋敷となった。そこに明治天皇が能を見に来たことから、明治天皇行幸所寺島邸記念碑が建ち、畠山一清が土地と建物を購入して今日に至っている。
さて、京博での展示会は3階から始まる。まずは初めて一清が蒐集した九谷焼を展示。普通の美術品であるが、なぜか初々しさを感じる。皿や釜などがあり、故郷の石川県に県立美術館が誕生した時に寄贈した西湖図が出ていたことで、工芸都市・加賀出身者である一清が茶道具に取りつかれたということに気づき、ハッとさせられた。
3階のもう一室では能衣装や能面を展示。明治天皇の観能の場所にある畠山記念館が能の道具を収集しているのは運命的なものかもしれない。衣装を飾るショーケースの背景が板間模様の壁紙を貼り、そこに松の木を描いた演出は能舞台を彷彿とさせてとても楽しめた。白い壁では面白味も味気もないので、とてもよいアイデアだと思う。
階を下って、ようやく国宝にたどり着く。国宝の禅機図断簡は5つに分けられているがそれぞれが国宝に指定されている稀有な作品だ。それぞれ、東京国立博物館、静嘉堂文庫美術館、アーティゾン美術館、根津美術館が所有しているが、なかなかお目見えしないのが畠山記念館が所蔵しているものである。東博のものはたまに遠征して地方で見ることができるが、他の4館の所有物は関西ではなかなか見ることが出来ない。
その中でも畠山記念館のものは、現地でも滅多に展示されないのでようやく見ることができた。この禅機図断簡は、因達羅の絵は緻密さと程遠い甘めの書き方をしている。中国でも絵は残っていないそうで、なにが評価されているのかイマイチ分からない。ただ、国宝の中で断簡された絵が5つも国宝になっているという事実だけが素晴らしいものへと変化させている。この展示会で5つすべて見ることができた。禅機図断簡展があれば見比べてみたい。