明月記は住友財団修復助成30周年「文化財よ、永遠に」の泉屋博古館(京都)に展示している。56年間の日々を書き綴った藤原定家直筆の日記で、歴史的な人物が50年以上書き続けた日記では最古級である。
明治維新後、京の公家たちは天皇を追いかけるように財産を以て江戸へ移住。太平洋戦争時、一部の財産は疎開できたが、多くは大空襲で失われた。その一方で、冷泉家は京に居残り組として京都御所の北側の住居に文化財を保管。周りが同志社に囲まれる立地にもめげず、歴史的文化財は守られ続けた。
先祖の記録としてだけでなく、平安貴族の生態が分かる一級品の資料として明月記は存在している。そんな歴史的な巻物も時間経過による劣化には勝てず、修復・補修を敢行。晴れて展示できるレベルまでとなった。
さて、定家の字だが、お世辞にもうまいとは思えない。誰に見せる訳でもないので書きなぐった感じが否めない。また、墨の継ぎ足しによる濃淡が慣れないこともあり、読みにくさを助長させている。ただ、読めない字でない。武士の書いた字は繋がりすぎて読めないことがほとんどなのに対して、一文字一文字がしっかりと書いている。そして、送り仮名なカタカナのことを除けば、癖字の学生が描いたノート程度には読める。千年前に寝る前の炎と月が明り取りの時代に書いたと思えば読めるだけ上出来かもしれない。