奈良博は仏教関連の展示会でマイナーだが観ると素晴らしい企画をする。昨年の源信展では各宗派の宗主(スーパースター)が参考(あこがれた)にした浄土の世界について展示し、一部では大反響だった。
そして、今回は刺繍による仏教美術。見仏記による彫刻仏像の人気は社会現象となり、東博では各有名寺院の仏像展が五月雨式に企画されて、大成功している。また、日本の中世絵画ブームも続いており、仏画についてもこれからブームになる予兆がある。にも関わらず、奈良博ではその先を見据えた刺繍による仏画、糸のみほとけ展を開催している。
そもそも、仏画・仏像は各末端の寺院にあり、質はともかく大量に存在している。一方で、刺繍は高度な技術とともに時間と手間がかかり、大量生産できないため、仏画・仏像に比べて多くはない
その多くない刺繍仏布の最高峰を集めたのが糸みほとけ。綴織當麻曼荼羅の修復が終わったことを記念して、大集合となった。修復後の當麻曼荼羅だが、修復前と言われてもいいぐらい茶色く変色しており、肝心の曼荼羅は目を凝らしてようやくうっすら見える程度であった。修復完了がこの状態なのだったら、修復前はいかにひどかったのだろう。また、部分復元したものも展示してあったが、現代の技術力ですら一部分復元するのに数年の歳月がかかったようで、制作した当時の人々の力の入れようが分かる。
複雑な刺繍は時間がかかるため、後半の展示にはほとけを梵字に変えて描いているなど、手間暇と費用を天秤にかけて造りやすいものへ仕様が変わっていくのだと分かり、今も昔も費用対効果なのだと思った。刺繍仏は千羽鶴思想に近いものがある。