国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

三十帖冊子 仁和寺

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文化財の修理・修繕事業は地味な作業の割に費用がかかるが、文化財保護には欠かせない事業である。最近になって、修理を終えた文化財を一挙公開する展示会が増えてきている。展示に耐えるまでに回復できたことと、展示することで少しでも修繕費の足しに出来ればという思い、なにより保護活動の認知度を上げて多くの寄付者を募りたいと考えているから展示会が増えているのだろう。

ただ、観覧者にとっては滅多に見ることができない貴重な文化財が展示していることが会場へと足を運ばせる原動力となる。今回の京博での文化財修理の最前線展も滅多に見ることができないものが数多く展示されていた。

仁和寺の寺宝で、空海が唐から持ち帰った三十帖冊子は先般、東博仁和寺展で修繕後の全巻一挙初公開があった。そして、今年は仁和寺の霊宝館でも秋季特別展の目玉展示物として公開されていた。

修行を終えて帰国する空海は、唐から密教知識を持ち帰るべく、この三十帖に詰め込んだ。スペースが限られる船内において、すべての情報を持ち帰るため小さな字でびっしりと書いている。日本の微細化技術が原点を見るようで、読みやすい字となっている。

仁和寺の寺宝で、空海が持ち帰った密教奥義は当時から国の宝なので大切に扱われてきた。だが、1200年近い前に作られたものなので経年劣化を避けられず修繕することとなった。神聖にして不可侵の密教の奥義書だと修繕も宗教的理由から叶わぬ夢だったかもしれないが、未来永劫受け継ぐための文化財となることで修理が行え、展示会で公開され、人々の目に触れることが可能となった。仁和寺では観音堂も改修工事を経て公開されるなど、文化財修理を通じて開かれたお寺となっている。

コロナ元年の国宝を振り返りつつ展望する

2020年を振り返ると東京オリンピック一色になるはずだったが、一転してコロナ一色となった。

年明け早々に中国・武漢で発生した感染症渡航規制のないまま、楽観的な対応で春節による観光客の受け入れで北海道がパンデミック状態に陥り、全国の施設で自主閉鎖が相次いだ。年度が替わって(オリンピックが延期決定した途端に)一気に全国で緊急事態宣言発令となった。そろりそろりと各施設の再開が始まり、秋の行楽シーズンは観光地に賑わいが戻った。しかし、それが災いして各地で医療崩壊寸前までになっている。

国宝巡りでも大幅なスケジュールの変更を余儀なくされた。1月は予定通りに見ることができ、2月上旬の奈良博開催の毘沙門天展、東博の出雲と大和までは何とか見ることができた。(奈良の観光バス添乗員から感染が確認され、コロナは鹿にも感染するというデマもあったので行くのに躊躇した)

2月の下旬以降は徐々に博物館・美術館が閉鎖され、企画されていた展示会自体がなくなるケースがでてきた。なかには順延して開催された京博の西国三十三観音展や東博のきもの展など一部内容変更があったものの無事に2020年に実施できたものもあった。また、三菱国宝展のように来年に延期するものもあり、対応が分かれる結果となった。惜しむらくは中止となったもので、ここの事情をクリアして再度企画してほしい。

コロナにかからず蔓延させない一番の方法は人と接触を避けること。なので、コロナ禍で日本国中が静まり返った春先は田舎の国宝建築を巡ることにした。普段でさえ人が少ない田舎で、国宝建築は山奥にあり、人と接触することはほとんどない。特に密教系の建物は修験の場に設けられたため、人里からも離れており密になりようがないので、思う存分拝観することができた。

さて、今年の国宝関連展示会の中で見ごたが一番あったは根津美術館の国宝・重文展だった。国宝それぞれが圧倒的な存在感があり、かつ普段はあまり展示されることがないものが多いので一気見できて満足できるラインナップだった。

東京オリンピックに合わせて企画された展示会が次々と次年に延期となる中で三井記念美術館の開館15周年は同館所有のものだけで構成されている展示会なので延期も可能だったはずだが、予定通り開催された。2021年の展示会の内容がもっとよいためだろうから期待したい。

来年はというとコロナの影響で国内の美術品に脚光が浴びる年になりそうだ。東博桃山時代展や京博の皇室の名品展などは展示物の借り受けが国内で完結するために実施できた。一方でボストン美術館展が海外から持って来れないため中止となった。カラヴァッジョ展のように借り受けの目途が付いたものは開催できるのだろうが、この状況下では海外との交渉がうまくいくとは限らず、リスクの高い海外ものより国内で完結する企画が多くなりそうだ。

その中で、一押しの展示は京博の秋展である畠山記念館展(仮)だ。現在、白金の記念館は閉館中。突然だったので、残念だった。この機会に大公開されるのであれば必ず行きたい企画で、奈良博で開催された藤田美術館展も満足を行く内容だっただけに名門美術館の品々を一挙公開する展示会に外れはない。三菱財閥が誇る国宝展はもちろん押さえるとして、徳川美術館源氏物語絵巻展も人気を集めそうだ。

阿弥陀三尊および童子像 法華寺

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阿弥陀三尊および童子像は法華寺の収蔵庫でも見たことがある。ただ、よい照明と距離を空けてじっくり見られるという点では奈良博は最高の環境である。

この仏画は三幅でワンセットで、大きさがバラバラ。阿弥陀様が大きく描かれているのは分かるとして、左の観音と勢至菩薩はそれだけでも主役となりそうな大きさに対して、右の童子のサイズは小さく釣り合わない。しかし、この左右の絵は紙質などから断裁されたように見える。一方で真ん中に配置している阿弥陀様は紙の劣化具合が少し違う。もしかしたら左右の絵は1つだったものを阿弥陀を加えてユニットに仕上げたいため特別に組まされたのかもしれない。杉山清貴オメガドライブではないが、メインボーカル不在ではしっくりこなかったのだろう。

 

倶舎曼荼羅 東大寺

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おん祭り展は展示総数45件とこじんまりとした陳列のため東新館で完結した。西新館では新たに修理された文化財がお披露目されていた。昨年から続く修理された文化財の公開展ムーブメントは一つのカテゴリーになりつつある。

公共事業予算が年々先細る中で、文化財修理に対する予算も厳しさを増している。一方で、企業の文化貢献(メセナ)の一環として修理、保善活動費の拠出がぼつぼつと出てきている。その文化貢献を見える化(PR)したい企業側の思いと、滅多に貸し出されない文化財公開を含む修理後の初々しいお宝を公開したい博物館側の思いが重なったことから企画が成立するようのなった。修理には年単位の時間がかかるので、頻繁に企画できるものではない。ただ、民間の善意に頼らないと修理もままならない時代だから成立している企画なので複雑な思いである。

西新館最初の入り口から一番見える場所に倶舎曼荼羅が展示されている。修理を終えたにも関わらず一見すると傷んでいる仏画としか判別できなかった。修理前はどれほど傷んでいたか想像できない。文化財修理展の中には修理前の写真を掲示して比較・解説しているものもあった。すべてを解説すると手間なので、メインどころだけでも修理前の写真がほしかった。

さて、倶舎曼荼羅釈迦三尊像を中心に、玄奘によって訳された倶舎宗の祖師8人衆が囲んだ絵。後方に梵天帝釈天が控え、四隅を四天王が護る鉄壁の布陣を執っている。曼荼羅図は使い込まれているためか、色あせ度合が経年劣化の域を超えているが、大事に使われていたためか色が全く分からないまでにはなっていない。おそらく法要などの重要な場面のみでの使用だったのだろう。東大寺の法華堂の仏像たちにも彩色が残っているように、扱いに慣れた従事者たちが管理すれば1000年以上経っても残ることを証明している。

若宮御料古神宝類のうち銀鶴 春日大社

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奈良国立博物館では毎年恒例のおん祭展が開催されている。おん祭は五穀豊穣、万民安楽を祈り大和一を挙げて盛大に執り行われてきた行事で、870年余りにわたり途切れることなく続いている国指定重要無形民俗文化財である。その信仰に関わる文化財を披露する展示会である。

春日大社のお祭りとあって鹿の絵が至る所に展示されている。藤原氏茨城県の鹿島から来たとされるため、鹿は神獣とされており奈良公園に多くの鹿が生息している。鹿なくして春日大社のお祭りは始まらない。お祭りの内容が細かく描かれた春日若宮御祭礼絵巻は伝統を受け継ぐための見取り図的な役割を果たしており、一般的な絵物語に比べると実用感が高い逸品。美術品としても観ることができるクオリティーはおん祭がいかに大事にされているかを物語る。

さて、国宝はというと鹿ではなく鶴。若宮御料古神宝類の銀鶴が単独で陳列。銀鶴は細工はそこそこよく出来ているのだと思うが、それのみだと全体感が分からないのでもう少し他の物といっしょに陳列してほしかった。祭りで使用されているのかもしれないので、春日大社の国宝殿での一挙陳列の機会を待ちたい。

2020-21年 年末年始の国宝TV番組

コロナ感染が落ち着かない中で、不要不急の外出を控えると、どうしてもTVばかり見てしまう。そこで、年末年始の国宝関連番組をピックアップしてみた。(ほかにもいろいろあるのかもしれないが目に着いた番組のみです)

 

◎京都ぶらり歴史探訪は歌舞伎俳優の中村芝翫が案内役を務めるBS朝日のテレビ番組である。毎週水曜日20時から放送されている。京都をテーマにその時の旬の場所に行き体験する番組である。京都の歴史を探訪する国宝とめぐり会わないのが難しいぐらいだが、年末年始の2時間特別番組はずばり国宝を紹介する。


BS朝日 12/30 19時~ 京都ぶらり歴史探訪「都の国宝4K2時間SP」
BS朝日 1/1 12時~ 京都ぶらり歴史探訪 「上賀茂神社下鴨神社大全集」
BS朝日 1/1 15時~ 京都ぶらり歴史探訪 「空海 京の都と高野山

www.bs-asahi.co.jp

 

◎2003年3月に放送した薬師寺の大講堂を復興の全貌を撮影したドキュメント番組。2020年は創建当時からの建物で、唯一残る東塔の大改修を終えて、1300年前の薬師寺伽藍が晴れて復活。華々しくお祝いするはずだった。本来ならば大講堂復興以上の盛り上がりがあったであろう03年の祝福の熱気を見ることで疑似体験したい。


BS朝日 12/30 17時~ 龍宮は舞い降りた~1300年の時を超えて甦る薬師寺

www.bs-asahi.co.jp

 

◎2021年は聖徳太子の遠忌1400年となる。そのため関連する様々な展示会が企画されている。そこで2020年1月4日に放送された平成から令和に変わる1年間の法隆寺を取り続けた番組のアンコール放送。建立されている国宝建築群は展示会場まで運ぶことができないので、4K映像を見ることで参拝した気持ちになりたい。


BSフジ 12/27 19時~ 令和の法隆寺~千四百年の伝承と聖徳太子の残響~

www.bsfuji.tv


◎BS8Kではずばり「国宝へようこそ」が撮影を終えた番組を1月に一挙放送。

www4.nhk.or.jp


たまにランダムでBSや地上波などでも放送されている番組。8Kでなくても見入ってしまう。国宝の中でもメジャーな建物を取り上げることが多い。一方で建築物のような不動産以外の動産は国立博物館所有のものではなく、撮影のタイミングがあった国宝が取り上げれている。撮影スケジュールとして、動産は貸し出しなどで撮影が容易な時に、動産がない時は不動産撮影なのだろう。月に1本のペースだと1200件以上ある国宝すべてを撮影するには100年近くかかる?この遠大な計画、NHKは完遂できるか。

俊乗坊重源上人坐像

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働き者の俊乗坊重源上人は今年も12月16日の御開帳があった。同上人は7月5日にも公開があり、展示会があれば地方遠征にも度々連れ回されている像である。

しわだらけのよぼよぼのお爺さんに見える坐像だが、全身からは力強さがにじみ出てオーラを感じる。平家による南都焼き討ちで荒廃した東大寺を再興した中興の祖にふさわしい出来栄えである。

堂内はコロナ対策からあまり人数を入れない様にしていた。そのため、間近でじっくりご尊顔を拝謁できた。特別展ではどうしても陳列しているだけなので彫像感が強いが、堂内の厨子に鎮座していることでリアル感が増し、今にも動き出しそうだった。

 

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。