国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

手鑑  藻塩草 京都国立博物館

天平文化。一定年齢以上の人は歴史の教科書で見たことがある時代だ。しかし、昔は白鳳文化の後期に内包されており、最近になって天平時代は奈良時代に含まれる形に変わった。(そして白鳳は飛鳥の後期になったので、天平と白鳳は消えつつある)

天平元号として存在し、聖武天皇が統治していた729年から749年までの期間。奈良の平城京に都を移して初期の時代である。大陸貿易で獲得した文化財東大寺唐招提寺などに多数残っていることから、文化の隆盛時期と捉えて、天平文化と呼ばれるようになった。その天平文化を再度見直す展示会が大阪市立美術館(10月27日〜12月13日)で開催される。

とは言うものの、天平文化財で最も有名かつ知られているのは正倉院の宝物。毎年秋に奈良国立博物館正倉院展が開催されるので、天平文化の核心部分はそちらに譲るとして、大阪市立美術館では、正倉院以外の同時代もの国宝では千手千眼陀羅尼経残巻 (玄昉願経)や手鑑 「藻塩草」に貼り付けられている書跡や、経典、影響を受けた絵画・彫刻などを展示するようだ。奈良駅とあべの駅はおなじ近鉄なのだが、路線が違うので乗り継ぎを間違えないように訪れたい。近鉄1dayおでかけきっぷ(大阪・奈良・京都版)https://www.kintetsu.co.jp/senden/Railway/Ticket/kintetsu1day/ を使うと安価でいけるので、前日までに購入しておきたい。

www.osaka-art-museum.jp

花園天皇像 豪信筆 長福寺

令和になって約1年半。昨年は東博三の丸尚蔵館所蔵で元御物の公開があった。そして、満を持して京都国立博物館で皇室の名宝と題して、三の丸尚蔵館所蔵物を公開する。

この展示会は前期と後期でかなりの展示物が入れ替わる。その中でも30幅すべてではないが動植綵絵が京都に帰ってくる。若冲の傑作中の傑作が戻ってくるのは必見だが、これも前・後期で入れ替えである。2度の訪問は必須。

さて、御物だったものは慣習上、国宝に指定されないので、国宝の出展される点数は少ない。国宝出品物のほとんどが京博のもので、長福寺の花園天皇像が京博以外のもので後期に出品される。御物が国宝並みの作品と考えると、御物・国宝展と言えなくもない。雅な展示会となりそうだ。

meiho2020.jp

太刀 銘助真 号日光助真 日光東照宮

東博の2020年秋の特別展はずばり安土桃山時代をテーマに「桃山  〜天下人の100年〜」を開催する。NHK歴史大河ドラマ麒麟が来るは明智光秀が主役で、展示会の時代とリンクするテーマ設定だ。

室町幕府が崩壊したことで、各地で下剋上による地域武士が台頭してきた。桃山時代はその終盤にあたり、地域武士が首都・京を占拠して天下統一を目指す時期にあたる。そこで、名門家のみが手にしていた絢爛豪華な絵画や金工物の製作を武士たちが依頼。支配者とパトロンが交代したことを世間に大々的に訴えるアイテムとして活用した。

戦時下であったため、焼失したものも多くあるが、残っているものだけでも派手で見栄えのするものばかり。黄金の国ジパング伝説がヨーロッパに喧伝されるのもうなずける豪華さである。

展示物は狩野派の黄金時代と、対抗した等伯の渾身の作品。徳川家の名品も展示される。そのなかには日光東照宮所有の助真国宗の国宝刀もあり、刀剣女子並びに戦国ファンにはたまらないラインナップとなっている。

tsumugu.yomiuri.co.jp

太刀 銘助包

刀剣の秋がやってきた。

このところ秋の展示会で刀剣女子が大挙しそうな刀展が開催されてきた。コロナの影響もあって今年は刀剣女子も自宅待機かと思ったが、大阪でマニアックな展示会が企画されている。

大阪歴史博物館はNHK大阪と同じ建物内にあり、派手な展示会はそれほど企画されない。10月31日〜12月14日の期間に開催予定の特別展 「埋忠 〈UMETADA〉 桃山刀剣界の雄」の出品がマニアックでとても良い。まずは岩国美術館所蔵になって初めての貸し出しとなる稲葉江。数十年間、個人蔵で展示が全くなかったが、所有者が変わって岩国美で展示されるようになった。そして、個人蔵の助包も十数年ぶりの展示。大阪の個人蔵の刀剣はなかなか見ることができないので、この機会を逃すといつのことになるか。刀剣博物館 (1月9日〜2月21日) に巡回予定だが、コロナの影響がどうなるか不安なので早めに見ておきたい。

umetada2020-2021.jp

仏涅槃図 金剛峯寺 

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9月のシルバーウィークは各地の観光地に久々の人出の賑わいをニュースが多く見受けられた。GOTOトラベルキャンペーンも相まって、コロナと共生する新しい観光が模索されている。そんな中で、2019年3月に新しくなったケーブルカーを見に行った。

ケーブルカーの形状はこれまでのものと同じで、外装はシックに内装は極楽をイメージした派手なデザインだった。乗り心地はまあまあだった。目的の大半はこれで終わりだがここまで来て、国宝を見ないで帰るわけにはいかない。

霊宝館では如来をテーマに展示。いつものように新収蔵庫から順にみる。こちらで見れた国宝は金銀字一切経中尊寺経)で、金銀交互に用いて写経されたものが展示。よく見るものは銀が酸化して黒くなっているものが多いが、丁寧に保管されていたため、まだ銀だと分かる劣化ぐらいだった。

廊下を渡って登録有形文化財の紫雲殿へ。ここには国宝の仏涅槃図を展示。よく見る涅槃図はお釈迦様が横たわる周りを人々と動物が囲み、涙するというもの。しかし、こちらは神たちが囲んで見つめて、動物は若干いる程度だった。描かれた年代と作者が表面に堂々と書かれていることも珍しく、寄進物ではあまり見たことがない。釈迦の衣に使われていたであろう切金細工が見にくくなってはいるものの、1000年近く前の作品とは思えない色鮮やかな仏涅槃図である。

 

客殿 観智院

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東寺に関連した国宝として、塔頭寺院の観智院がある。東寺の境内の北の端にある宝物館に一番近い出入り口にあり、春秋の特別公開時に開かれている。共通拝観券で観ることができるのもうれしい。

大徳寺妙心寺などの塔頭寺院は大きな敷地内にある雰囲気を残しているが、東寺に関しては写真のような閉ざすための扉が備えられているので、境内にある雰囲気はない。おそらくは洛南高校が隣接するため、時間外に東寺境内に入られないための処置であろうが、どことなく仕切って開放感がないのは密教の特性からくるものかもしれない。

さて、観智院のみどころは宮本武蔵がふすまに描いた鷲の図。剣豪で知られる武蔵だが、絵もそこそこ残しており、展覧会などでしばし見受けられることがある。御世辞にも超一流の画家と並び評することはできないが、独特の味のある水墨画は剣豪として文化も嗜んでいることの表している。侍は仕官するためには文武両道でなければならず、その意味では一流なのだろう。その他の見どころとして、庭は枯山水五重塔の先っぽが見えるなど東寺の塔頭寺院らしさを演出している。

こじんまりした庭園と建屋ではあるが、観智院自体は東寺のみならず真言宗全体の勧学院と位置づけられていたようで、多くの学僧を輩出している名門寺院。数々の僧侶が弘法大師の教えを学んだ場所だが、比叡山延暦寺が輩出した名僧たちに比べると名前が出てこない。大都会での勉学よりは人里離れた場所の方が没頭できることを証明していており、現代に置き換えると東大より京大の方がノーベル賞受賞者が多く出ている現象に似ているかもしれない。

十二天像  伝宅間勝賀筆

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春と秋、京都が観光客であふれかえる時期に東寺では名宝展と題して宝物館を開く。講堂に安置されている立体曼荼羅の各仏像がすばらしく、国宝仏像では兜跋毘沙門天像が2階に安置されている程度なので見逃しがちだ。場所も北の端にあることから、共通券を買ったからついでにと訪れる人も多い。

気温はだいぶ落ち着いてきたが日向だとまだ汗ばむ。宝物館はエアコンが利いているのでクールダウンにはもってこいの場所である。今回の名宝展は第55回記念展示。その目玉は十二天像の屏風。密教の灌頂の儀式で使う屏風で、2019年春に東博で行われた展示会でも前期後期分けて展示されていた。彫刻とは違い、持ち運びが前提で作られていることから、折り畳み式の屏風絵に集約されたのだろう。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。