国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

勧学院客殿 三井寺

f:id:kokuhou:20191022093900j:plain

三井寺にある勧学院はここ数年屋根の葺き替え工事中だった。平成の終わり頃から始まった工事も令和に入り無事完了。それを記念して特別公開された。

とはいっても、屋根をじっくり見ることが出来る訳ではなく、あくまでも屋内の見学のみ。そして、客間の豪華な襖や床の間の絵はレプリカで、宝物館での保管となっている。なので、見学自体にはあまり感動が無い。

客殿とはホテルのことで、貴族のお参り時に泊まって朝のお勤めに向かうため作られたものだ。なので、貴族が好む池泉式庭園が西側に作られている。軒が少し伸びていて、庭園を楽しむための工夫がされている。大きさは少人数の宿泊施設なのでこぢんまりしている。3名以上の事前申し込みで見学できるようだが、今回のように時期を限って公開がなければ、一人旅人にはハードルの高い施設となっている。

平家納経 厳島神社

f:id:kokuhou:20191018091319j:plain

広島県歴史博物館(ふくやま草戸千軒ミュージアム)は2019年で開館30周年を迎えた。安芸、備後の各城に新君主を迎えて400年記念イベントと合せるように「戦国から争乱 太平の世へ」展を開催している。

戦国から江戸初期の安芸と備後の歴史を紐解く内容で、毛利家から福島正則、浅野家と水野家へと続く資料を展示している。目玉は平家納経。福島正則が修繕のため、俵屋宗達(と伝わっている)に依頼したもの2巻を前後期に分けて展示。風神雷神図屏風本阿弥光悦とのコラボ巻物など、数々のヒット作を生み出す宗達が修繕もしていたとされることに驚く。大ヒットの作への序章、下積み時代のノンクレジット作品が国宝というのも、最初から評価が高かったということなのだろう。事実かどうかは別にして、平家黄金時代と時間を超えて宗達がコラボしたと想像するだけでわくわくする。福島正則の依頼(たまたまかもしれない)が美術史の奇跡を現代に観ることができる貴重な機会だった。

太刀 銘真恒 久能山東照宮

f:id:kokuhou:20191018091412j:plain

広島県では安芸と備後でぞれぞれ城主が変わって400年の記念イベントが開かれている。備後・福山城譜代大名の水野家が入封して400年のメモリアルイヤー。そこで、久能山東照宮のお宝を城郭内にあるふくやま美術館で一挙公開している。

東照宮といえば、日光を思い出すが、家康が埋葬されたのは久能山になる。おじいちゃん好き、じじコンであった家光が日光に家康祭神ランドを派手派手しく作ったため、久能山のイメージが薄れてしまうが、本家所在地は駿府近くの久能山になる。

久能山日本平を望む小高い山で、東海道を監視するにはもってこいの場所である。なので、家康が晩年は駿府に住み、西へのにらみを利かせていた名残を受けた埋葬地である。秀吉に比べて派手好きではなかった家康は質素に埋葬された。展示物も調度品は手の込んだ細工や武具で派手なものもあったが、金ぴか趣味の秀吉に比べると大したことはない。

さて、国宝の真恒は入り口すぐの1番目に展示してある。平安期などの大太刀ほどではないが、国宝の太刀では大包平に次ぐ大きさだそうで、武家の総領である征夷大将軍にふさわしく、見た瞬間に力強さを感じる作品である。

木造不空羂索観音菩薩坐像 興福寺南円堂

f:id:kokuhou:20191021080917j:plain

毎年10月17日の1日だけ見学できる興福寺南円堂。今年は西国三十三ヶ所参り1300年と天皇即位を記念して11月10日まで見ることができる。

国宝で1日限りの御開帳は珍しくないが、それらの安置場所は同日以外人通りが少ない。しかし、この南円堂に限ってはいつも参拝客でにぎわっている。なにせ、33ヶ所巡礼地であるばかりでなく、国宝建築物や彫刻仏の宝庫である興福寺に立地しているためで、奈良観光の目玉施設の一つであるためだ。

南円堂で一番の見どころは木造不空羂索観音菩薩坐像東大寺の法華堂にも不空羂索観音菩薩像があるが、あちらは立像だ。お堂いっぱいに光背が広がる坐像は見ていて壮観。拝観者を包み込む感じがあり、周りを囲む四天王像と法相六祖坐像が国宝であることも忘れるぐらい、神々しさを放っている。四天王像は近年の研究で入れ替え作業があり、元あった場所に据え付けられたが、観音菩薩はいつまでも同じ場所に鎮座している。

南円堂と北円堂内の彫像はすべて国宝。この時期だけのスペシャルコラボ開館中。東金堂と国宝館にも国宝彫刻が満載で、興福寺の所有する国宝彫刻を一度にすべて観るまたとない機会だ。なお、奈良博で開催される正倉院展と時期が被るので、このコラボ見学狙いで多数の参拝者が来ることだろう。(南円堂は11月10日で終了なので、正倉院展より早く始まり早く終える。天皇家の秘宝展だけに気を使った会期設定なのかも)

寒山拾得図断簡 因陀羅筆 礎石梵埼賛 東京国立博物館

f:id:kokuhou:20191017101831j:plain

広島県では二つの400年にまつわる展示会が開催されている。県西部の安芸の国では福島正則改易後、浅野家が入城してちょうど400年目にあたる展示会を開催している。

浅野家といえば赤穂の匠頭が知名度に勝るが、そちらは別家で宗家は安芸広島藩城主である。豊臣家の重心だった福島の後を継ぐ形で入城した浅野家は、毛利や島津など西国の大名たちの防波堤となる地政学的に重要な場所を任されていた。にも拘わらず幕末では薩長同盟に加わる薩長芸三藩同盟を締結し、幕府討伐に尽力した。

勝利者側であるはずの浅野家ではあるが、薩長土肥の中には入れずに明治以降の存在感は低下。その影響もあって、同家所有の家宝たちは散逸していくことになった。今回の展示会ではそんな浅野家所有物だったものを集めた。珍しかったのは掛け軸などを保管する箱を展示していたこと。箱の良し悪しや箱のための箱などを作るなど作品のレベルが保管方法で分かるようになっていた。浅野家の文化財に対する造詣があればこそである。

国宝は後期の寒山拾得図のみ。裁断されてもなお5つが国宝と言う代物で、所有者もばらばらというもの面白い。三十六歌仙の佐竹本展が開かれているが、断簡を集めるのは至難の業。学芸員の努力の賜物だと思う。国宝の土偶大集合、佐竹本の次は、中国の水墨画を集めて国宝・寒山拾得一挙公開を期待したい。

さて、禅の題材として好まれた寒山拾得。独特の顔の表情が妖怪もしくは「くしゃおじさん」に見える。日本の水墨画の達人たちも同様の題材で多く描いているが、ユニークな表情を除けば面白みに欠ける。画家ではなしえなかった禅画の退屈感打破は、白隠のような発想がぶっ飛んだ表現者を待たねばなるまい。

名物稲葉江  岩国美術館

f:id:kokuhou:20191010111042j:plain相州正宗、粟田口吉光と共に「天下三作」に数えられる郷義弘享保名物帳では同氏作を十一口掲載している。その中でも、名刀の誉れ高いのが前田家に伝わる「富田江」と「稲葉江」である。富田は前田育徳会所有で、もしかしたら展示会などへの出品の可能性があるが、稲葉はこれまでは個人蔵で門外不出。それこそ、稲葉江が国宝指定を受けてすぐぐらい以外は展示会への出品はないようで、60年近く全く世に出ていなかった。なので、ほとんどの人は観たことがない。お化け以上にレアな刀だった。それが所有者が変わったことを機会に、岩国美術館への寄託となり、晴れて展示されることとなった。

令和最初のゴールデンウィークにちらっとだけ先行展示したそうだが、今回は幟まで作って大々的に展示している。吉川史料館の狐ヶ﨑、錦帯橋の紅葉と見るべきものがいっぱいある秋の岩国に合わせた格好だ。名の彫刻は鑑定士の本阿弥光徳によるもので、実際の製作物かは神のみぞ知るところだ。ただ、実物を観るにつけて手入れが行き届いた美しい刀であることは間違いない。岩国美術館の1階展示室の中央に鎮座していたが、360度全方位から見ることが出来るとてもよい配置だった。ぜひ、刀剣乱舞実装前に見ておきたい国宝だ。

 

 

福岡一文字吉房(岡田切吉房) 東京国立博物館

f:id:kokuhou:20191009114909j:plain

東京国立博物館の常設展には常に何らかの国宝が展示されている。国宝を展示するためだけの部屋もあり、年間のスケジュールが春先に公開されるので、見学のスケジュールが立て易い。

2019年の秋も多くの国宝刀を観た。その締めくくりに東博の本館13室にある刀剣の国宝を見に行く。天下五剣のひとつ・三日月宗近は相変わらずの人気で常時、5から6人の刀剣女子に囲まれていた。その近くに展示している国宝・吉房もちら見程度には関心を示していたが、時間が経ては独占的に見ることができた。

鎌倉時代、技術的に円熟した備前で作られた刀で、刀の力強く豪胆な反りが特徴である。平安武士の騎馬による名乗り合いからの勝負から、元寇を経た白兵戦の時代の流れに合った刀となっている。

豊臣秀吉が竹腰正信に与えた代物。同家は尾張徳川の家臣として幕末まで重責をになったことから来歴もはっきりとした名刀である。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。