国宝を観る

国の宝を観賞していくサイト

国宝を楽しむため、いろいろ書いています。 勉強不足でも観れば分かる。それが国宝だ。

一遍聖絵

f:id:kokuhou:20190504223515j:plain企画展では絵巻物の一部しか展示されないことが多い。その点、特別展でしかも展示される絵巻物の冠展示はすべてを展示してくれる。ただ前期後期で巻替えが行われることが多いが、気の利いた展示場は展示されていない場面の複製を展示してくれており、絵巻物の全体を一度に観ることが出来る。

一遍上人の絵巻物は時宗の各地での普及場面が描かれていて、旅物の雰囲気をまとった宗教絵巻となっている。基本的には各地で集団で踊る風景が描かれる。全国で集団で踊ってみた的なノリが描かれていて、それまでの仏教が貴族のものであったことを考えると庶民にまで普及する切っ掛けとなった絵巻物である。旅物は結構人気があり、水墨画でも題材となったものをたまに見る。しかし、庶民には見る機会がないので浮世絵の普及する以前では貴重な檀家たちが楽しめる旅物絵であったかもしれない。

時宗浄土教へつながる宗派ではあるがなじみがあまりない。ダンス系宗派では躍る楽しみが分かる人でないと難しいのか、その後の浄土系の念仏を唱えるだけの簡易な宗派が勢力を伸ばした。そういう意味でも来場者がそれ程多くなかった。

【春日大社】黒韋威矢筈札胴丸

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式年遷宮が記憶に新しい春日大社。その時に造られたのが国宝殿で、春日大社の至宝を少しずつ展示している。

そんな春日大社は甲冑類の国宝保有数はナンバーワン。4つの甲冑と1つの籠手が指定を受けている。ちなみに甲冑4点が国宝指定を受けているのが厳島神社大山祇神社で、厳島は平家、大山は源氏が瀬戸内海運の安全のために奉納したのだろう。

春日大社は武運の願掛けで奉納していて、籠手は源義経が奉納したと言われている。そして、黒韋威矢筈札胴丸楠木正成が奉納したとされるもの。春日大社の国宝甲冑には装飾が煌びやかなものもあり、それらは奉納のために造らせたと思われる。対して黒韋威矢筈札胴丸は装飾性は少ないが、部分部分で豪華さを感じる作りとなっている。鎌倉武士の合理性を備えた黒い甲冑はいつ戦で着てもおかしくない輝きをしていた。

【明恵展】絹本著色仏眼仏母像

都心の高層ビル内に造られた美術館は仕事帰りなど気軽に行きやすいメリットがある。一方で、展示スペースが大きく取れないデメリットがある。その点で六本木のサントリーミュージアムは2階分のスペースを確保して広々とした展示が出来る。その前例に倣わず平面的なワンフロアのみで、コレクターの人となりの説明と茶室を再現した中之島の香雪美術館は常連になればなるほどそのスペースがもったいなく思える。ともに常設展はなく、特別企画展で勝負しているので、常設部分がなくても(常設部分は常時無料開放でも)問題ないと思う。

さて、高層ビルの限られた空間は高さも制限されていている。古い博物館なら大きな作品を陳列するため高い天井を設けている。ところが、香雪美術館の天井はオフィスより高くはなっているが3メートルを超すものの陳列は難しい。そんな展示条件が功を奏したのが絹本著色仏眼仏母だろう。高さが2メートルぐらいの仏画で、ショーケースいっぱいに陳列されていて迫力十分。頭の部分に獅子冠が掛かれており、視線が自然と見上げてしまう。蓮に座った仏眼仏母像が人の等身大に近い大きさとなっており、明恵が亡くなった母親の変りとして慕ったのもうなずける出来である。高山寺で実際に掲げられた場面を見て観たくなる作品だ。

 

【明恵】鳥獣戯画

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国宝の絵巻物で現代人にも親近感が涌く作品が鳥獣戯画だ。ウサギやカエルなどが滑稽な動きで描かれている作品で漫画の原型になったと言われる。

その鳥獣戯画は甲乙丙丁の4巻からなり、引用されることが多いのが甲乙の巻である。中之島の香雪美術館で開催されている明恵展では前期と後期で2巻ずつの展示をしている。見に行ったのは後期は丙丁の巻物。甲乙の躍動感とユーモア感ある擬人化絵の代表に比べて、丙丁に架かれているものの印象が薄い。それもそのはずで、人々が鳥獣同様に遊びまわる様子が描かれている。当時の市井での遊びが分かる貴重な絵巻物であるので国宝級であるのは間違いない。しかし、動物が遊ぶ姿に比べるとインパクトは薄れる。見るのならば甲乙つけ難い方になる。

【藤田美】仏功徳蒔絵経箱

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藤田美術館展では工芸品に描かれている菩薩やゆるキャラが宣伝ポスターなどに使われている。この絵が描かれているのが仏功徳蒔絵経箱である。

経典を入れる箱は数あれど、箱単独で国宝指定を受けているのは4点(経典の付属として指定はもっとある)。その中でも藤田美術館のものはかなりゆるい。箱には空中浮遊する菩薩とその下界では動物たちが描かれている。当時の蒔絵技術の限界だったのかリアル路線からは少し外れている。木々や風景、仏は緻密に細工されている一方で、動物はシルエットで小さく描かれている。それぞれ躍動感はあるのだが、如何せん小さくアイコン的なデザインなのでかわいらしい。涅槃図で悲しむ動物が愛らしいのと同じく、経箱の限られた空間で菩薩への動物たちの愛情が観ていて癒しになる。

【藤田美】曜変天目茶碗

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奈良博 藤田美術館

現在改装中で2022年のリニューアルオープンを目指す藤田美術館の至宝を集めた展示会が奈良国立博物館で開催されている。リニューアルに際して、その費用をねん出するために所蔵のアジアの美術品を売りに出し、300億円もの資金を得たのは記憶に新しい。

なので、今回の展示は日本美術、とくに仏教関連が中心で国宝9点すべてが展示される大型展示会。これまでの蔵を改装しただけの藤田美術館では、展示が難しかった十六羅漢図や仏像彩画円柱8本の一度にすべての展示をするなど見どころ満載となっている。

その中で一番人気は世界に3つしかないとされている曜変天目茶碗。奈良博では入口すぐの部屋の中心に特別な空間を作って展示している。行列必死の茶碗に対して万全の体制を取るべく、広い展示スペース内に部屋を作り、入口出口を一か所にして導線を確保。曜変天目を見るためだけに並ばなければならない。そして、現れた茶碗は漆黒をベースに光によって蒼く輝く天目茶碗だ。

曜変は斑点の外側への蒼さが広がりが印象的であった。斑点が惑星で、その周りに宇宙があるように観える。しかし、茶碗を照らす光源がショーケースの一番上の一か所からしかないため、どの角度から見ても茶碗の輝きが一緒であった。改装前最後の藤田美術館で開催された展示会「ザ・コレクション」では古い蔵の暗さにありながら少しの光で輝きが変わっていたり、解説員の説明の時はLEDライトで光を当てて輝きの違いを観ることができた。展示会場が大きく、安全面から暗くするのが難しい空間なのでしかたないが、MIHOでも感じた光らせ方を何パターン化ほしかった。

藤田美所有の曜変天目は円形の傷となる茶筅の跡がよく目立っており、使用感が半端なくある。選ばれた人が茶の湯を楽しんだのだろうが、その感想があればぜひ知りたい。

伊予国奈良原山経塚出土品

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玉川近代美術館

今治市の駅からバスで揺られること数十分。四国山脈を目指して南下するにつれて、市街地から田畑へ変わり始めた頃に玉川近代美術館の近くのバス停となり下車する。

本当に美術館があるのかと思うほどのどかな場所だが、この場に似つかわしくない近代的な建物が奥に見え隠れしていた。その一つが玉川近代美術館で、主に絵画と像を展示している。マティスやルオーなど近代の西洋画が展示されており、2階の展示室が吹き抜けになっていたり、なにげに像が展示されているおしゃれな近代美術館である。

そんな近代美術館の1階の展示スペースすぐの正面に個室がある。そのなかに国宝の出土品が収められている。一般的な出土品の展示の場合、仏像や古代の関連物に囲まれているものが多いのだが、近代絵画のなかに出土品を展示しているのはここぐらいのものだろう。銅塔にはうっすら梵字で書かれた意匠があるほか、古銭、扇なども展示されている。

国宝の出土品は歴史的価値はあっても、近代美術とは程遠いものばかり。常設ではなく春と秋に特別公開のみは残念だが、玉川近代美術館の雰囲気ではそれが正解。お遍路さんのついでに寄りたい癒しの場所である。

国宝拝観者たちの夢、それは千件越え。 毎年、国宝指定数が増えているので、容易にはなってきているものの、一つの目標である。 900件を超えた辺りから新規の拝見ペースが落ちているが、果たしていつ達成なるか。