企画展では絵巻物の一部しか展示されないことが多い。その点、特別展でしかも展示される絵巻物の冠展示はすべてを展示してくれる。ただ前期後期で巻替えが行われることが多いが、気の利いた展示場は展示されていない場面の複製を展示してくれており、絵巻物の全体を一度に観ることが出来る。
一遍上人の絵巻物は時宗の各地での普及場面が描かれていて、旅物の雰囲気をまとった宗教絵巻となっている。基本的には各地で集団で踊る風景が描かれる。全国で集団で踊ってみた的なノリが描かれていて、それまでの仏教が貴族のものであったことを考えると庶民にまで普及する切っ掛けとなった絵巻物である。旅物は結構人気があり、水墨画でも題材となったものをたまに見る。しかし、庶民には見る機会がないので浮世絵の普及する以前では貴重な檀家たちが楽しめる旅物絵であったかもしれない。
時宗は浄土教へつながる宗派ではあるがなじみがあまりない。ダンス系宗派では躍る楽しみが分かる人でないと難しいのか、その後の浄土系の念仏を唱えるだけの簡易な宗派が勢力を伸ばした。そういう意味でも来場者がそれ程多くなかった。